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結城翼

※レイプ、暴力、流血表現あり 「千尋くん、千尋くん、起きて」 「ん……どうしたんですか……?」 「急でごめん。すぐこれに着替えて10階に来て」 「え、えっ? 何?」 「アヤが撮影ばっくれた」 「男優さん入りまーす」 「よ、よろしくお願いします!」  撮影開始三十分前に連絡が取れなくなったらしいアヤ。自分好みの仕事しかしないアヤがばっくれる事は日常茶飯事だが今回は少し事情が違う。  今日撮影するのは大手事務所の男優、結城翼さんの単体作品。有名な男優さんらしいので中止する訳にも行かず、俺がアヤの代役をする事になった。  顔見知りのスタッフさんに簡単に事情を説明され、軽い気持ちで承諾した俺には、このスイートルームの中が地獄に見える。 「定点位置ズレてるよー!」 「カーテン替えよう。明るすぎる」 「テストお願いします!」 「これとかどう? 合わないかな」 「衣装確認して!」 「男優さん入りまーす!」  ひと。ヒト。人。  室内を慌ただしく動き回るスタッフの数に驚愕する。スタッフの数だけじゃなく機材も凄い。見たことないような大きなカメラに、音声を拾うためのマイクまである。  いつもは男優さんとカメラさんの2人だけの撮影しか経験した事の無い俺。 「っ……アヤのばかぁ……」  思わず呟いた声は、雑音の中に消えていった。 ―――――― 「あっ、ン、あんっ……」 「気持ちいい?」 「んっ、きもちいっ……」  嘘。全然気持ち良くない。中をかき回す指は前立腺なんか一切触ってくれず、力任せに出し入れされ、ズキズキと痛む。向こうも気持ち良くさせる気も無いんだろう。ローションの力を借りてただエロい音を立てるだけの行為。  それにさっきからこの人自分のカメラ映りしか気にしてない。遠目でモニターチェックしたり、動く度にいちいち前髪を触ったり…そんなん気にしなくたって十分イケメンなのに。その小さな行動が気になってこっちも集中出来なくて。  一向に勃つ気配の無い自身に焦って緊張して、さらに萎えていくとかいう悪循環。最高の撮影現場の中で、最悪の状況。  正直泣きそうになりながらも必死で集中していると、ふと結城さんの動きが止まった。 「……?」 「これさあ、撮影無理だよね? いつまで続けんの?」 「ッ……」  結城さんの呆れた声と、途端に慌ただしく動き始めたスタッフさん達の姿。  とんでもない事をしてしまったんじゃないかって。解ってはいるけど身体が動いてくれず、しばらく呆然と眺めていると、駆け寄ってきたスタッフさんからバスローブを受け取り、ベッドから立ち上がる結城さん。  そこでやっと頭が動き出して、慌てて起き上がる。 「俺っ……! ごめんなさい! 出来ます!」  シャワーへと向かう結城さんにそう駆け寄って、伸ばした手が、振り払われた。 「お前はもういい。いらない」 「っ、……」 「アヤ居ねぇの? アヤくらいのレベルじゃなきゃ俺に釣り合わない」 「今連絡を……」 「早くしろよ。暇じゃねぇんだよ」  会話をぼんやりと聞きながら部屋を出る。引き止める人なんて居ない。  ああ、ほら。俺やっぱり出来ない子だった。

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