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「……ん……」
どのくらい経ったんだろう。延々と泣き続けた目は真っ赤に腫れてしまった。こんな事で泣くなんて、我ながら女々しすぎると思う。全部上手く出来なかった自分のせいなのに。
(ごめんなさい、)
今日の事、きっと佐伯さんにも報告行くんだろうな。失望される。当たり前か。仕事の連絡は佐伯さん通せって言われてるのに、相談もしないで勝手に引き受けて、勝手に失敗して、大勢の人に迷惑かけた。
また熱くなってきた目頭を押さえて俯いていると、何だか廊下が騒がしい。
「……?」
何だろ、アヤ来たのかな……?
逃げ込むようにして入ったこの部屋は、さっきの撮影部屋のすぐ近く。なんとなく気になって廊下を覗いてみると、近くを通りかかったスタッフさんと目が合った。
「あっ! 男優さん見つけましたー!!」
「……?」
「ほら、早く来てっ」
「えっ、ちょっと……」
訳も解らないままぐいぐいと連れて来られたのは、またこの現場。
「時間押してるから早く」
「でも俺、さっき……」
「他に居ないんだよ。アヤも連絡つかないし、急だから他の子も調達出来ない」
切羽詰まったスタッフさん達の声に押され、おずおずとベッドに座る。
と、奥のシャワールームから結城さんの姿。
「っ、あ、あのっ……さっきは本当にすみま……」
「は? 何その顔。泣いた訳? 撮れねぇじゃん」
「あ……」
「あー本当だ。目が腫れちゃってるね……」
うつむいた俺の顔を覗き込み、濡らしたタオルを差し出してきたメイクさん。それを見ていた監督が、ある提案を出す。
「じゃあさ、無理矢理にしちゃう?」
「あー……うん。いいっすね」
「結城くんのレイプ物ってハズレ無いですし」
「またかよ。まあいいけどさ」
「じゃあ決定で。衣装お願い」
「了解でーす。結城くんこっち来てーっ」
無理矢理? レイプ? 状況が飲み込めないまま話は進み、俺も制服に着替えさせられる。
「準備出来たね? 始めるよ」
「あのっ、俺、何すれば…」
「ああ、君新人なんだっけ。とりあえず結城くんに任せてればいいよ。大丈夫。彼は人気ある子だからさ、流されちゃいなよ」
「わ、解りました……」
どうしよう。どんなのだろう。台本も無い。何も解らない。怖い。でもやらないと。もう失敗は許されない。頑張らなきゃ。
「はあ? お前新人なわけ? なんで俺がこんな奴の相手しなきゃいけねぇんだよ……」
「っ、す、すみません……」
「さっさと終わらせて帰るわ」
冷たい目。冷たい言葉。また泣きそうになるのを何とか耐えていると、急に前髪を掴まれ引き上げられる。
「痛っ……!」
「なんだ、顔はイイじゃん」
にやにやと舐め回すように見られ、反射的に顔を背けるが、その耳元で一言。
「顔は殴んないでやるよ」
「え……? っ、あ……!」
鳩尾にくらった拳。突然の痛みによろけた身体をベッドに押し倒され、着たばかりの制服を無理やり剥ぎ取られる。
「っ、げほっ! げほっ、やっ、やめっ……!」
演技でも何でもなく、ただ素で抵抗してしまい。視界に映った大きなカメラとマイクに、撮影のことを思い出して慌てて思考を持ち直す。
が、その一瞬の抵抗も結城さんを苛つかせるには十分だったようで。
――バキッ
「ッ!」
「あーあ、顔殴っちゃったじゃん」
「っ、う、あ……」
「あははっ! イイ顔するじゃんお前」
痛い。痛い。なんでなぐるの。怖い。
胸がザワザワする。怖い。頭がついていかない。
「んっ! んぐっ!」
「ほら、しゃぶれよ」
口内に突っ込まれたソレは既に固く勃ち上がっていて、舌を伸ばす間もなくぐちゅぐちゅと口内で律動を始めた。
「んんっ! んッ! げほっ、ンっ、んんんっ!」
「あー気持ちいい」
「んぐっ、んんーっ!」
ただでさえまだ慣れておらず苦手なフェラなのに、そんなのお構いなしに喉の奥まで激しく打ちつけられる。
殴られた頬と腹が痛い。掴まれた前髪も痛い。苦しい。苦しい。こんな一方的で乱暴なフェラ初めてで。
本当は、とっくに逃げ出したくてたまらなかった。
結城さんも怖い。本当に怖くて。でも、一度失敗したから、今度こそなんとか成功させなきゃって。だってこれが俺の仕事だから。
「んぐっ、んっ! げほっ……げほっげほっ」
「勝手に止めてんじゃねぇよ」
「んんうっ、んぐう、んっ!」
仕事だから。俺の仕事だから。
だけど、ふと脳裏に浮かんだ佐伯さんの姿。下手くそな俺にいつも合わせてくれて、いい子だね、上手く出来たね、って優しく頭を撫でてくれる佐伯さんの姿。
比べるなんて、意味無い事だけど。でもあの優しい笑顔を思い出して、とうとう涙が溢れた。
「んぐっ! っ、げほっ……んっ、げほっ」
乱暴に口から引き抜かれたモノに安堵しながら、必死で呼吸を整える。だがそのままぐちゅりと後孔にあてがわれ。
「え……」
待って。待って。まだ慣らしてない。ローションもない。そっち触ってすらいない……の、に……
「……いッッ! っ、あああぁぁアあッッ!」
最奥まで無理矢理突っ込まれたそこが、ぎちりと嫌な音をたてる。
痛い、痛い、痛い、何これ、痛いこんなに痛かったっけ? 違う。違う。痛い。
こんなの違う。こんなの知らない。
「……あ……ああぁ、ア、」
噛み合わずに震える歯がガチガチと音をたて、目から勝手に流れ落ちる涙で視界がぼやける。
何とか痛みをやり過ごそうと耐えていると、無情にも始まった容赦ない打ちつけ。
「休んでんじゃねぇよ」
「ひぐ、っううぅ! いっ、あアあっ!」
痛みで視界が歪む。頭の中が耳鳴りの音でいっぱいになる。かすかにぐちゅぐちゅと水音がした。なんで、ローション使ってないのに。無意識に下に向けた視線が、脚を伝う赤を捉えて、またボロボロと涙がこぼれる。
血、出てる。痛い。こんなに痛いのに、なんで、なんで止めてくれないの、
「い、たいっ、ッ……やッ、うぅッ、」
力の入らない上半身はガタガタと震え、腰だけ高く上げられたまま、ただただ泣きながら耐える。ぼやけた視界の中、目に入った大勢のスタッフに手を伸ばすが、ギリ、と叱るように爪をたてられ。
「ひっ、アぁ……ッ!」
激しく抜き差しされるその入り口。ふいに爪で裂けた後孔の傷口を無理やり広げられ、声にならない悲鳴をマイクが拾う。
もう止めて。無理だよ。もう無理、痛い、痛い痛い痛い痛い、怖い、こわい、こわいの、
「ひううっ、あああっ! もお、やだ……っ! 抜い、て……いた、うぅッ……っ!」
「あー、最高……」
「いやああアっ、痛いッ……、やだあっ、ひあアあっ! もおやだ……ッ!」
お願い助けて、
誰か助けて、
佐伯さん、佐伯さん、佐伯さん、
佐伯さん、助けて……
頭の中を埋め尽くす大きな耳鳴り。そこに混ざり次第に掠れていく自分の叫び声。
それを聴きながらただただ泣く事しか出来なかった――……
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