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「俺の事好きだよね」
「はい、OKです」
「お疲れ様でしたー!」
ざわざわと動き出すスタッフさん達の声が聞こえ、重い瞼をゆっくりと持ち上げる。
「っ……」
やっと、終わった。痛い。痛い。怖い。嫌だ。もう嫌だ。佐伯さん。佐伯さん。
少し身体に力を入れるだけで全身が痛み、ボロボロ溢れる涙がシーツを濡らす。
「お疲れ様でした。シャワーあちらです」
走り寄ってきたスタッフさんからタオルとバスローブを受け取る結城さんの姿が目に入り、ぼんやりと霞んだ視界の中でふと視線が絡む。反射的に震えだした自分の身体を、両手でぎゅっと抱きしめてシーツに顔をうずめる。
と、腕を強く引かれ、
「ヒっ! や、あ……!」
「シャワーこいつと一緒に入るわ」
突然のことに抵抗する間も無く腕の中に収められ、訳も解らないまま脱衣所まで連れて行かれる。下半身に力が入らず、ガクンとその場に崩れ落ちてしまった俺を、あの冷たい瞳がゆっくりと見据える。
「……」
反射的にガタガタと馬鹿みたいに震える身体。無言のまま掴まれ、脱衣室の冷たい床に押し倒される。
「ヒっ……! やっ、な、にっ……もっ、触ん、ないっで、くださッ……! ううっ、や、だ、」
「ごめんな……?」
「ひぐっ、んっ、」
恐る恐る見上げた結城さんの顔は、泣きそうに歪んでいて。さっきまでの冷たい瞳じゃない。自信に満ち溢れた強気な態度も無く。
赤く腫れた俺の頬に、ゆっくりと唇が触れた。
「痛かったよな……本当にごめん……」
「ゆ、うきさん……?」
「ここも……赤くなってる……」
「んっ、」
殴られた頬と鳩尾。行為中ずっと押さえつけられていた肩。強く掴まれた腕や手首。無理やり開かれた脚。全身に優しく落とされるキス。
「や、あっ……!」
「じっとしてて」
「っ、」
優しく脚を広げられ、ズキズキと痛む秘部にも唇が触れる。ごめん、とうわごとのように繰り返しながら、白濁と血で汚れたそこに何度もキスが落とされ。
怖いのと、恥ずかしいのと、申し訳ないのと、よく解らない感情がごちゃまぜになって。真っ赤になった顔を隠していた手の甲にもキスされて、慌てて結城さんに向き直る。
「ッ、あっ、あの、もう大丈夫……っ、です」
「まだダメ」
「なっ、何……ンっ、んんっ、」
綺麗な顔が近付いて、そのままゆっくり重なる唇。角度を変えて、何度も何度も優しくキスされる。
髪を撫でる左手も、いたわるように俺の手を取り絡んだ右手も、密着する熱い身体も。撮影の時の冷たさなんて一切無い。全部が優しくて、
「んっ、……んん、」
「ちゅ、ン、……また泣かせちゃった……?」
「っ、あ、違、これは違っ……!」
いつの間にか流れていた涙を、熱い舌がすくう。それでも途切れる事なく溢れるそれに、結城さんが苦笑する。
「そんなに嫌だった……?」
「ち、がう、なんか、わかんな……!」
「わかんない?」
「ふ、ううぅ……っ、」
なんで。なんで。頭ん中ごちゃごちゃでわかんない。色んな感情がぐるぐると渦を巻く。わかんない。
とうとう本格的に泣き出してしまった俺の頭を、結城さんが優しく撫でる。優しい。嬉しい。嬉しい。
「ねぇ、千尋って多分さ……俺の事、好きだよね」
「っ、え……」
見開いた目元に、またキスが落ちる。熱の籠もった優しい瞳に、胸がギュッと熱くなった。
好き……? 違う。わかんない。わかんない。でも、だったら、この涙は何。このごちゃごちゃな感情は、何。
「違う?」
「違、くない……好き……」
言葉にすれば、また涙が溢れて。泣き虫、ってクスクス笑いながら、優しく抱きしめられる。あったかい。優しい。嬉しい。
「俺も好きだよ……千尋」
ああ、俺、結城さんが好きなんだ。
頭の中を埋め尽くすこのごちゃごちゃは、好きって感情なんだ。
暖かい腕の中で心が熱くなって、涙が止まらなかった。
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