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「だめ、」
「千尋と二人っきりって久々だね」
「一週間ぶりくらいかな」
「一週間かあ。どう? 元気だった?」
「うん。てかさあ、佐伯さん、」
「んー?」
「ちょっと近くない……?」
佐伯さんが好き、
そんな天変地異な恐ろしい感情に気付いてしまってから8日目。
何故よりによってこの変態駄目人間を。何度も何度も何度も何度も考え直してみたが何も変わらない。どうやら俺は本当にこの変態駄目人間に惚れてるらしい。
現に今だって隣に座られただけでドキドキしちゃってるし。
「広いんだからもうちょっと離れてよ」
「えー? でもカップルって設定だよ? しかもヤりたい盛りの高校生。こんくらいが普通じゃない?」
「そうかもしんないけど……!」
今日の撮影はカラオケで発情してヤっちゃうカップル。
408号室。数年前までは恐らくツインルームとして使われていたであろうその場所に、カラオケ店の個室が完璧に再現されていることにはもう一々驚かなくなった。
今の問題はただひとつだけ。
L字ソファの広い方を空けてやったというのに、わざわざすぐ隣に腰を降ろしてきた佐伯さんに緊張してるって事。あとついでに言うと、佐伯さんの制服姿が思いのほかイケメンすぎて不覚にもキュンとしてるって事。
「カメラの位置分かった? ちょっと見え難いんだけどあそことあそこに……」
「っ、」
ほら、少し動く度に密着する身体。
久しぶりの佐伯さんの香りに、心臓がまたドキドキし始める。
「じゃあ千尋の淫乱スイッチ入るまで適当に盛り上がろっか」
「淫乱スイッチとか言うな!」
「ふ、可愛いー」
可愛い、なんて。
やばい。嬉しい。顔が緩む。久しぶりの佐伯さん。嬉しい。カップルって設定も実は死ぬほど嬉しかったり。佐伯さんへの想いに気付いてから、この一週間ですっかり恋愛脳になってしまった自分に呆れてしまう。
「はい、千尋もどんどん曲入れな」
「カラオケ久々だから歌いたいのありすぎて悩む!」
「じゃあ決まるまで俺がイケメンボイスで空気暖めといてやろう」
「さすが佐伯さん。何歌ってくれんの?」
「アンパンマンマーチ」
「……はぁ……」
「ちょ、千尋さん?なんでため息?」
なんでよりによってこいつを好きになったんだろう。
恋は理屈じゃない、って素晴らしい言葉だと思う。
――――――
「はあ~! 歌い疲れたあ~っ!」
「当初の目的完全に忘れてるよね」
「う……ごめんなさい……」
「ふふ、いいよいいよ。どうせカメラ回しっぱなしだし、使える所しか使わないしさ」
そう微笑む佐伯さんからグラスを受け取り、冷たいアイスコーヒーをひとくち。熱の篭もった体内にスッと落ちていく感覚が気持ちいい。
「それにカラオケ久々だったんでしょ? がっつり楽しんでくれてこっちも嬉しいよ」
「う、うん……」
久々のカラオケだから。それも確かにあるんだけど、でももっと重大な理由が他にあって。
「……え、えっと……次何歌おうかな~」
「こら、もう散々歌ったでしょ? ヤる前に声枯れちゃうって」
マイクに伸ばした手を取られ、そのまま佐伯さんの口元へ。
「っ……」
ちゅ、小さなリップ音をたてて指先に落とされたキスと、ゆっくりと絡んでくる冷たくて綺麗な指。
思わずびくりと肩を揺らしてそれを振り払ってしまった俺に、佐伯さんが眉をひそめる。
「……?」
「え、えっと、あの、その……さ、佐伯さんもコーヒー飲む?」
「千尋……? さっきからどうしたの」
「っ、あっ! あの子、あの新人さんはどうなの? えっと、弥生くん、だっけ? どんなかんじ?」
「……ふふ、」
しばらく怪訝な顔で俺を見つめていた佐伯さんは、ふと何かに気付いたようにクスクス笑って。
「弥生は順調だよ。仕事覚えんのも早いし、男とヤる事にも見られる事にも慣れてるし。あいつは結構上行くんじゃない?」
「そ、そっか」
「……」
「えっと、あの……」
「千尋もしかしてさ、撮影久々だから緊張してる?」
「べっ、別に……!……ン、ぁ、ん……」
ちゅく。唇が触れる。舌が絡む。冷たい指が俺の頬を優しく撫でる。その一つ一つにいちいち身体を揺らして反応してしまう。
なんだこれ、心臓がバクバクしてる。
「千尋は何も考えなくていいから、俺に任せといて?」
「う、ん……」
久々の撮影だから緊張してる?
違う。好きだから、緊張してる。
「んッ、ふ……あっン、」
長い指で弄られるソコはもう完全に勃ち上がり、静かな室内にいやらしい水音を洩らす。
頬に、額に、瞼に、首筋に、耳元に、唇に。止まらないキスの雨と、密着した身体と、囁かれる甘い声。
(死んじゃいそう、)
真っ赤になった顔をどうする事も出来ずただ羞恥に耐えていると、だんだんその甘い唇が下へ下へと降りていき。
「っ……! さえきさっ、待っ……っああぁっ……!」
水音をたてながら俺のモノをくわえる佐伯さん。テンパった思考の中で、弾かれたようにその頭に手を伸ばして、
「さえきさんだめ……! きたないから……!」
「ン……ふふ、どうしたの。ただのフェラだよ?」
「ちがうの! だめ……っ、やっああっ……!」
イイ所を甘噛みされ、小さな抵抗も簡単に快楽に負けて。引き剥がすために佐伯さんの頭を押さえていた筈の手で、軽くセットされていたその綺麗な髪をくしゃりと掴んでしまう。今はそんな事を気遣う余裕なんかない。
「やっああっ! だめ、だめ……、あぁっ、んンっ……!」
どうしよう、ただのフェラなのに。恥ずかしくて、恥ずかしくて、でも死ぬほど気持ちいい。好きって気持ちひとつでこんなに変わるもんなんだって、涙でぼやけた視界でぼんやりと考える。
と、ふとその涙を舌で掬われて。
「ごめんね、泣かせちゃった?」
カメラに見えないように、マイクに音を拾われないように、至近距離でクスクスと笑われて。抱きしめられた身体と耳元にかかる吐息に、また心臓が騒ぎ出す。
顔が熱い。脳が溶けそう。佐伯さん、佐伯さん。
俺もう、だめ。死んじゃう。
「続き、するよ?」
「……っ……だめ、」
「……へ?」
一瞬遅れて聞こえてきた間抜けな声。真っ赤な顔を見られないように俯いたまま、密着した身体をぐいと押し返す。震える手で、膝まで下げられた制服を下着と一緒に上げて。
「……ち、ひろ……?」
「……ご……めん、なさいっ……、」
「えっ……」
返事も反応も待たず、ただ一言そう残して。
勃ち上がった自身と、熱く疼く身体。完全に臨戦状態な全身を無理やり引きずって部屋を飛び出した。
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