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「……で、それからどうしたの?」 「声枯れるまでアンパンマンマーチ歌って萎えさせた」 「ぷっ! あははははっ!」 「笑い事じゃねぇよ、アヤ……」  机に突っ伏してがっくりうなだれる佐伯さん。でも一週間ぶりのちいちゃんに挿入寸前で逃げられるなんて、これが笑い事じゃないならなんなんだ。  一連の流れを想像してまたクスクスと零れ始めた笑いをこらえていると、佐伯さんが神妙な面持ちで語り出す。 「……千尋が仕事放棄するとかあり得ないよね?」 「うんうん、あり得ないねぇ」 「って事はさ、ただ俺とヤりたくなかっただけとか……もしかして俺千尋に相当嫌われてるんじゃ……」 「あはははははっ! もー! お腹痛いーっ!」  悲痛な声に、またお腹を押さえてケラケラと笑い転げる。  出会ってから5年。今までずっとずっと、常に飄々と余裕ぶっこいていた佐伯さんのこの超絶片思いっぷりは、見ていて本当に楽しい。 「うう~……千尋ぉ~……」  でも、えぐえぐと沈んでいく姿にちょっと罪悪感。だってアヤ、全部知ってるから。 『撮影中断して出て来ちゃったの……』 『もう頭ごちゃごちゃで、』 『顔もまともに見れなかった』 『もう恥ずかしくて、佐伯さんとSEXなんて……』 『また失望されちゃう、どうしよ~!』  そう言ってちいちゃんが泣きついてきたのはほんの数時間前。  まさか次は佐伯さんが泣きついてくるなんて思わなかったけど、とにかく2人とも無駄な心配してる事がハッキリしてアヤ的にはもう満足だから、助言も何もしてあげないっ。  それに佐伯さんってば一週間もちいちゃん放置して新人くんとニャンニャンしてたんだもん。ちょっとくらいの罰は与えるべき! 「てかいっそハッキリ聞いてこようかな。もしかしたら重大な理由があるのかも……」 「理由? 俺もう佐伯さんなんかのちんこじゃ満足出来ないの……って言われたらどうする?」 「……やだあああぁ!」 「あははははっ! 佐伯さんおもしろすぎいー!」  2人の両片想い状態。  知ってるのはきっとアヤだけだけど、アヤは恋のキューピットちゃんなんか似合わないしまっぴらごめん。  だから引き続き、ただの傍観者としてこの可愛い恋愛を楽しもうと思います。以上っ!

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