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「アヤにまかせて」
「ちいちゃんなんで最近佐伯さんの事避けてるの? まだ恥ずかしいから?」
「えっ? 俺避けてる?」
「うん。最近話さなくなったし、なんか挨拶も冷たいし」
「あー……多分それ佐伯さんを避けてるんじゃなくて……」
「なるほど、そっちね……」
「うん……」
決して佐伯さんを避けてる訳ではない。
恥じらいも以前より少なくなり、まだ撮影(性行為)こそは出来ないものの、普通に会話出来るくらいまでには回復した。
一緒に仕事を出来なくなった分会える時間もかなり減り、たまに顔を出してくれる時はそりゃもう嬉しくて。見えない尻尾をぶんぶん振りながら駆け寄りたくてたまんないのだが。
『千尋ー。久しぶりー』
『佐伯さんっ。お疲……』
『わあっ。佐伯さんだあっ! お疲れ様でーすっ!』
そう、いつもどこからともなく現れる弥生くんに全て持っていかれるのだ。
そうなると彼の“協力者”としては身を引くのが当然の事で……結果的に佐伯さん本人まで避けてしまっている事態。
「もう告っちゃえばいいのに~」
「なっ! そんなの出来る訳ないじゃん!」
「えー? なんでー?」
「だ、だって……佐伯さん……きっと女の子が好きだと思う……」
なんとなく、そう思う。
この仕事をしてるからって誰もが同性愛者だとは限らない。現にスタッフの竹内さんには同棲中の彼女がいるし、今まで仕事してきた男優さんの中には家庭を持っている人も。
佐伯さんだって同性愛者である可能性なんてかなり低いし、仮にそうだとしても可愛くもなんともない俺を選んでくれるとは到底考えられない。
「実際いつか佐伯さんに彼女が出来たらかなりヘコむんだと思うけど、今はこのままでいいの。好きって気付けただけで十分幸せ」
「ちいちゃん……あのね、佐伯さんはね、ちいちゃんのことが、……あ~……う~~っ!」
「?」
「んにゃあああああっ! 言いたいいいぃいっ!」
「ア、アヤ!? どうしたの?」
可愛いクマのぬいぐるみを引きちぎりそうな勢いでぶんぶん振り回し始めたアヤを慌てて止める。
机の上の飲みかけのココアを渡してやれば、ごくごくと勢いよくカップを空けて、
「ぷはぁっ! なんでもない。次の話しよう!」
「う、うん……」
「えっと、一番の問題は2人っきりになれない今の状況だよね。こんなんじゃ好きって気持ちもそのうち自然消滅しちゃうよ」
「そうだよね……でも弥生くんが居る限り落ち着いて話も出来ないし……あ、でもメールとかなら……」
「待ったあっ!」
「へ?」
ポケットから携帯を取り出そうとした手を掴まれ、
「アヤにまかせてっ! 秘策があるのだっ!」
「秘、策……?」
ああ、きっとろくなモンじゃないんだろうな……
完全にこの状況を楽しんでいる。アヤの異様にキラキラした目を見ながらそう思った。
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