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焦燥感

「2人ともはい、先月分のファンレター」 「ありがとうございます」 「にゃ! わあ~いっありがとーっ」 「……アヤ、せめて受け取ってから捨てなさい」  佐伯さんの手から渡る事もなくバシッとはじかれた紙袋は、綺麗な弧を描いてゴミ箱へジャストミート。毎月発揮されるアヤのこのコントロールの良さには何度見ても拍手を贈りたくなる。  とは思っていてもそれが出来ないのは紙袋の中身、読まれもしないまま捨てられていく大量の手紙達への複雑な気持ちがあるからだと思う。 「ったく……ファン大事にしないと後で困んのお前だぞ?」 「大事にしなくてもおかげさまで5年間不動のNo.1でございます」 「……そうなんだよね……ちくしょう……」 「てかゲイビ男優相手にわざわざファンレター送るような根暗なファンなんてこっちから願い下げだし? ねっ、ちいちゃん?」  そう当たり前のように言い切ったアヤに同意を求められるが、手渡されたばかりの数通の封筒を見ながら首を傾げる。 「俺は嬉しいけどなぁ……」 「えぇ~っ!? それまじ!? 有り得ない!!」 「いや、お前が異常なだけ。千尋の反応が普通なの」 「異常ってなにさあっ! 佐伯さんのばか!」  ギャーギャーと言い合い始めた2人に、慌ててフォローに回ろうとするが…… 「アヤみたいに毎日毎日大量に貰ってたら嫌気もさすかもね! 俺なんか月に2、3通だけだからまだ純粋に喜べてるだけであって……」 「千尋、フォローは必要ない。こいつ新人時代からずっとこうだし、初めて貰ったファンレターも本人の目の前で燃やした奴だから」 「鬼と呼ばせて下さい」 「んにゃっ!? ちいちゃんのばかばかあーっ!」  ぼすぼすと投げつけられるクッションを何とかかわしていると、佐伯さんがクスクス肩を揺らしながら静かに鞄を開いて。  取り出された白い封筒に、アヤの動きがピタリと止まる。 「にゃっ! きゅーりょーめーさいっ!」 「そ。千尋もはい、1ヶ月お疲れ様」 「わ、ありがとうございます」  先ほどとは打って変わり両手でしっかり受け取って即中身を確認するアヤに、佐伯さんと顔を見合わせて苦笑い。  逆に俺は給料明細には興味無く、今までの分も封も開けないまま放置している。内訳が記載された明細を見てもいまいちピンとこないし、売り上げの方も10位以下の圏外だし。 「そんなに焦って見なくても、今回もしっかりNo.1だから安心しな」 「うんっ! やったあっ!」 「アヤおめでとー」 「えへへ~っ。ありがとっ! ボーナス貰いに行ってくるねぇ」 「うん。行ってらっしゃい」  無邪気に笑うアヤの頭をぽんぽん撫でていると、佐伯さんがふと何かを思い出したように口を開いた。 「あ、そうだ。アヤここでちょっと待ってて。今回弥生もボーナス支給なんだよね」 「はーいっ。待ってるー……って、え? 弥生くん!?」 「うん、あいつ3位だって」 「わーお! ちいちゃん聞いた!? 弥生くん超すごいねぇ!」 「う、うん、凄いね……」

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