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罪悪感
「大地さん、ごめんなさい。もう会いには行けません…」
『どういう事……?』
「終わりに、したいんです」
『……今からうち来てよ。会って話し合おう』
「い、や……でも……」
『待ってるから』
待っている、そう言い残し一方的に切られた電話。そりゃそうだよね。散々世話になっておいて、説明もなく電話ひとつで突然終わりにするなんて自分勝手にも程がある。
(ちゃんと謝ろう。お礼もしなきゃ、)
気持ち同様に、重く沈んでいく足取りでエントランスを抜ける。と、丁度目の前に現れた人物。
今一番会いたくなかった人。
「佐伯さん……おはようございます、」
「おはよう千尋。一人で出掛けんの?」
「えっと、ちょっと買い物……」
向こうも驚いたように目を丸くして、でもすぐにいつものように優しく微笑んでくれた。
その笑顔にまた嘘をついてしまった事が苦しくて、俯いたまま佐伯さんの横をそそくさと抜けていく。
が、即座に腕を掴まれて。
「どこまで行くの? 送っていくよ」
「い、いや……悪いし、」
「送っていくよ、」
「……っ、」
ギリ、と腕に強く食い込む指。見上げれば昨日と同じ、見透かすようなあの冷たい瞳。
怖い、
反射的に目を逸らし泣きそうな顔で地面を見つめていると、ふと腕を掴む力が弱まる。
「おいで。寒いから車行こ?」
そう優しく微笑まれ、ぎゅっと手を握られる。良かった。
いつもの佐伯さんだ……。安堵から一気に気が抜ける。手を引かれるがままに駐車場へと向かった。
――――
「ここでいいの?」
「うん、」
「そっか。じゃあ気をつけて行ってらっしゃい」
「うん……、ありがとう、」
今更ごまかす事も出来ず、目的地の駅前まで送ってもらってしまった。近くには住宅街が広がる小さな駅。買い物、だなんて分かりきった嘘を佐伯さんはどう思ってるんだろう。
それでも大地さんのマンションの近くまで頼めなかったのは、まだ自分を守ろうとしているから。最後の最後まで、全てを隠し通そうとしているから。
この期に及んでまだ自分の事ばかり考えて。そんな浅ましい自分に腹が立ち、震える拳をぎゅっと握りしめた。
と、その手を優しく包まれて。
「ン……っ……、」
唇が触れる。優しくて甘いキス。
突然のことに、数秒で離れていった顔を呆然と見つめる。
「したかっただけ……ごめんね、行ってらっしゃい、」
「……って、きます……」
痛々しい笑顔で微笑まれ、やっとの思いでドアに手をかける。振り返らずに返した一言は消えそうにかすれていて、きちんと届いたかはわからないけど。卑怯な俺はとにかくその場から逃げ出すことしか考えてなくて。
佐伯さんの泣きそうな表情に気付く事なんて出来なかった。
「……っ、ふ……うぅ、」
車から離れたところまで歩き、とうとう耐えきれず嗚咽を漏らして座り込む。
涙が溢れて止まらない。悪いのは全部俺なのに。
(ごめんなさい。佐伯さん、ごめんなさい。)
嘘ついてごめんなさい。信じてくれたのに、裏切ってごめんなさい。ただあなたに褒めて貰いたかっただけなんです。
切ない、切ない、くるしい。
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