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劣等感
考えてもみろ。
手の届かない存在が突然目の前に現れて、助けを求めてくるんだ。
あの純粋な目を見たら誰だって思うだろ?
自分の色に染めてやりたいって。
「大丈夫だ……大丈夫……すぐに戻ってくる……」
何十回目かのリダイヤルを掛けながら、目の前のパソコンを見つめる。怒りと疑問と、それを気まぐれに煽る愉快犯の声で埋まったコメント覧。「事務所に通報する」その言葉が目に入り、一向に繋がる事の無い携帯を壁に投げつけた。
「クソがッ!」
ただの趣味として細々と運営していた、ゲイビのレビューブログ。たまにどの事務所の誰とヤった、などと載せて、興味津々で食い付いてきた馬鹿なファン達から金を取って嘘の情報を提供。
そんなケチ臭い手法で金の源泉としていた小さなブログが、この数週間でアクセスも稼ぎもトップクラスの人気ブログへと成長した。
(千尋、千尋。早く戻ってこい……)
着々と荒れ始めているコメント覧を見つめながらガチガチと爪を噛んでうずくまっていると、今まさに待ち侘びていたチャイムの音。
戻ってきた……!
パソコンを投げ出し玄関に走る。
良かった! これでまた、あの天国に戻れる。
そんな俺の最後の希望を打ち砕いたのは、ドアの前に立つ胡散臭い笑顔の男だった。
「こんばんは、大地くん。Rの佐伯といいます。上がるね?」
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