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安定感

「あ、千尋来週の火曜撮影ね」 「はーい。どんなやつ?」 「カップルのハメ撮り設定。お相手はイケメン男優だから思う存分いちゃついておいで」 「わ、イケメンさん楽しみ。頑張ろっと」 「……お二人さん随分落ち着いちゃったねえ。ちょっと前まではラブラブ全開だったのに」  もぐもぐとクッキーを頬張りながら呆れ顔のアヤに、佐伯さんと顔を見合わせる。 「まあそんなもんでしょ。四六時中ベタベタすんの飽きたし」 「うん。俺もそろそろ佐伯さん以外のちんこ欲しいし」 「いや千尋さんそれは問題発言だけどね?」  問題発言だなんて、思ってもないくせに。書類に目を通しながらどうでもよさそうに突っ込む佐伯さんに俺も適当に返事をしながら、アヤお手製のチョコチップクッキーに手を伸ばす。  だってもう恋人になってから二週間。付き合いたて特有の浮かれ気分なんてとっくに鎮火され、またいつも通りの生活に落ち着き始めていた。 「まあ無事にくっついてくれたからアヤは大満足だけどねっ」 「長々ご迷惑おかけしました」 「ん? 長々ご迷惑?」 「そおなの。佐伯さんってばちいちゃんにずーっとずーっと片思いしてたんだよーっ」 「ちょ、なんでそういう恥ずかしい事暴露すんの」  そうだったんだ……びっくり。てっきり俺の片思いから始まった恋だとばかり思っていた。 そんな事実を教えられたら、いつから? なんで? どのくらい? って。まるで修学旅行の夜みたいに定番で幼稚な質問しか浮かばなくて。 (やっぱり、だいすき。)  落ち着いた、とは言ってもこの感情は未だに溢れ続けている訳で。勝手に緩んでいく頬を引き締めるためにカップへと手を伸ばした。  が、アヤの言葉にその手が止まる。 「よおしっ。クッキー好評みたいだから弥生くんにも配りに行こっと!」  弥生くん、  この二週間、ずっと避けていた人物の名前。

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