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「ほら千尋、靴脱ぐからじっとして」 「んあ~、やらあ~」 「こら、暴れないの」  ふらふらとよろけながら歩く千尋を支えながら、なんとか千尋の家であるRのホテルにたどり着いた。  最後は「歩きたくない」とか駄々をこねた千尋をお姫様抱っこして部屋まで運んでやった訳だが。  初めてのお姫様抱っこは、顔を真っ赤にして恥ずかしがる姿を見て悦に浸りたかったのに。  ムードぶち壊しなお姫様抱っこデビューを思い出して挫けそうになりながら、ベッドで暴れる千尋の靴をなんとか脱がせて立ち上がる。 「お前は酔うと駄々っ子になるんだね……」 「やらあ~っ! 靴かえしてぇ!」 「次からは絶対飲ませないわ。まあ可愛いからいいけ、ど……っ!?」  視界が反転。  靴箱に向かおうとしていた背中を思いっ切り引っ張られ、油断していた身体は簡単にベッドに投げ飛ばされる。 「びっ……くりした……」 「ふふんっ。おれの勝ちぃ~っ」 「いや、今のは反則でしょ」  そもそも何の競技かは知らないが。  嬉しそうに笑う千尋にため息を吐いて、腕を伸ばして頭を撫でてやる。  と、何かに気付いたようにその手を取られて。 「くちゅーっ」 「んー?」 「おれのおくちゅ返してぇ」 「ああ、靴ね。多分その辺に散らばってるよ」  きっとベッドに投げ飛ばされた際に手放して、一緒にどこかに投げ飛ばされたに違いない。  起き上がって探す気力も無く、もうこのまま寝ようかな、なんてぐったり目を閉じていると、俺の腕をぺたぺたと触っていた千尋の手が、とっくに着崩れたスーツのジャケットを探る。 「おくちゅー」 「ふふ、そこには無いよ」  促されるようにジャケットを脱いでやれば、しばらくそれをばさばさと振り回してからベッドの下に放り捨てる。 「むー……おくちゅ返してぇー」 「ははっ。くすぐったいって」  唇を尖らせながら今度はシャツの上から靴を探し始め、身体を弄る可愛い指先の感覚に思わず笑いが零れる。 「大好きなくちゅなのにー……」 「ごめんごめん。明日返してあげるから今日はもう寝よっか」 「やらあーっ」 「はいはいごめんね」  駄々っ子に幼児化。困った恋人だな。  構ってやりたくなる可愛さだが、あいにく今は眠気の方が強い。酔いどれ千尋の相手はまた次の機会に…… 「……こら千尋、そんな所に靴は無いよ」 「あるもん、だいしゅきなの」  聞き慣れた金属音に、重い瞼を持ち上げる。  もたもたと慣れない手つきで苦戦した後、するりと外されたベルト。そしてしばらく下着を撫でていた手が、ゆっくりと中に突っ込まれて。 「あった……、」 「……」 「おれのだいしゅきな、佐伯しゃんの……」  自身に感じる熱い吐息に目を向ければ、俺のソレにすがりつくように頬を寄せ、うっとりと目を閉じる千尋の姿。 「……それも反則だろ、」  一気に飛んだ眠気と疲れに、自嘲するように小さく呟いた。

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