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「おはよう千尋。何それ? 土下座?」 「昨日はとんだ失態を……!」 「あぁ良かった。記憶残る派なんだね。あんだけ追い詰めてくれて、翌日全部忘れてますとかだったらぶっ飛ばす所だった」 「ひいっ!? 追い詰めるって!?」  昨日の幼い可愛さとは違う、いつもの可愛さで首を傾げる千尋。  こみ上げてきた愛おしさを隠そうともせず、ぎゅっと抱きしめてやる。 「ううん、こっちの話。それより二日酔いとかは? 大丈夫?」 「うう~、あたま痛い~……」 「ふふ、寝てなよ。水持ってくる」  ちゅ、と軽いリップ音をたてて額にキスを落とせば、恥ずかしそうに身をよじってそのままベッドに潜り込む。 「可愛いね。昨日はあんなに大胆だったのに、今日はキスだけで照れるの?」 「うるさいっ。早く水っ!」 「ふふ、了解、」  ポンポンと頭を撫でてから立ち上がり、キッチンに向かう。  大丈夫、いつも通りだ。  昨日の黒い欲望なんて、一切ない。傷つけたくない。傷つけない。 (本当に、そう思ってる……?)  水切りカゴの中に乱雑に置かれた包丁。  どくんと脈打った心臓を押さえながら、コップに手を伸ばす。  本当は知っている。  あの感情に気付いてしまったら、もう戻れない。戻せない。我慢出来る筈が無い。  千尋の血が、欲しくてたまらない、 「……大丈夫、」  まるで自分に暗示をかけるように、そう小さく呟いた。

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