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愛しい横顔(カズ+朝日過去話)

 朝から一日中葬儀場の中をバタバタと慌ただしく動き回り、やっと一息ついたところで喪服のネクタイを緩める。  この重苦しい空気はどうしても息が詰まる。  だが見渡した先、両親の遺影の前で姿勢良く座ったままの恋人の姿を見て、さらに息が苦しくなった。  朝日の両親が揃って自殺。  十五歳の朝日にその死因が直接知らされる事は無かったけど、遺書にびっしりと並んだ謝罪の言葉をひとつひとつを思い出し、無意識にぎゅっと胸を押さえる。 「カズさん、俺、どうしよう……」  今日走り回った原因のひとつ。葬儀中に乱入してきた柄の悪い男達に突きつけられた、莫大な額が記された書類。  それに視線を落としながら呟く横顔には、やっぱりいつもと同じ、ニコニコと人の良さそうな笑みが貼り付けられていて、  泣きもしない。怒りもしない。  頼ってくれることも、助けを求めてくれることも、やっぱり、無かった。  それがすごく腹立って。 「ウリでもやって稼げば」  吐き捨てた言葉に、一瞬だけ。ほんの一瞬だけ。  驚きと、戸惑いと、ほんの少し悲しみが見えた。 「……そうですね。他界した両親のためにも早く返済したいですしね。そうしますっ」  それはまたすぐに笑顔に隠されてしまったけど。  初めて目にしたその一瞬の表情が、とても、愛おしかった。 「ああ、終わるまで見守っててやるよ」  全てを失った中で苦しむお前のカオ。  とても悲しくて、とても愛おしいカオ。  ずっとずっと、すぐ隣で見ててやるよ。

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