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「ただ送ってあげただけジャン。手は出してないヨ?」
「当たり前だろ」
「シュン君のだもんネっ。今は俺ちゃんと我慢するっ」
「“今は”……?」
「冗談だってばァ」
ホテルの前で合流した佐伯さんは、俺が伊織さんの車から降りてきたことに目を丸くし、何かを察したようにため息を吐いた。
暖房の効いたロビーでテーブルを囲みながら、二人のやりとりにクスクスと肩を揺らす。
俺の知らない佐伯さん。またひとつ世界が繋がったみたいで嬉しい。
そんな俺を見て、伊織さんも満足そうに微笑んだ。
「まー、お二人サン仲良くやってるようで俺安心~。これからも失血死しなイ程度に仲良くネっ!」
「……失血死?」
「だって毎回シュン君の性癖に付き合ってたラ危なくない? 貧血どころじゃないっしょ~」
「……?」
意図が汲み取れず、ポカンとはてなマークを浮かべる俺に、今度は伊織さんの方が首を傾げて。
「え、マジ? もしかしてシュン君隠してんノ?」
「……」
「……ねぇ、佐伯さん、何の話……」
「千尋、そろそろ時間だよ。撮影行きな」
押し黙ってしまった佐伯さんに問いかけるが、時計を指されながらにっこりと微笑まれ。
まるで、入ってくるなって、拒絶されたみたい。
ほら、これが怖くて踏み込めないの。
「……うん、行ってきます、」
俺の知らない佐伯さん。
またひとつ世界が離れたみたいで、かなしい。
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