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「もしかして治ったとかァ?」
「……」
「じゃあなんでチヒロ君に隠してんノ?」
「……傷つけたく、ない、」
伊織の問いにゆっくりと首を振れば、呆れたようにため息を吐かれる。
「あのさァ、そぉやって何でもかんでも隠しちゃうほうがよっぽどヒドくない?」
「……」
「チヒロ君、佐伯さんの事なんも知らない~って悲しそぉだったヨ?」
「あいつが、そんなこと……」
何も知らないなんて、確かにそうかもしれない。隠し事も嘘も多すぎる。
その事で千尋を悩ませているなんて気づかなかった。
このまま“優しい恋人”で逃げ切ろうなんて、都合が良すぎる。
「ぐずぐずしてたラ、俺が奪っちゃうヨ?」
「……っ、」
「……嘘だってばぁ。安心シテ?」
にこり、向けられたのはいつもの無邪気な笑顔。目の奥が冷たい、いつもの変わらない笑顔。
「それに俺、今翼の調教で忙しくて他行く暇無いかラっ」
「……は? 調教? あの結城翼を?」
「うん、今度ドMの可愛い可愛いバリネコちゃんに仕上げて連れてくるから待っててネっ」
「……楽しみにしとくわ、」
ひらひらと手を振りながらエレベーターに乗り込んでいった伊織を見送り、鈍く痛むこめかみを押さえる。
千尋を傷つけたくないから言わない?
違う。
千尋に嫌われるのが怖いから、言えない、
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