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「パジャマもコーヒーも紅茶もいらない」
「ちいちゃんこんばんはーっ」
「あれ、アヤどうしたの?」
「あのね、カズにホテルの戸締まり頼まれてたんだけど、アヤこれからお出かけする事になったからバトンタッチ!」
「戸締まり……え?今日カズ居ないの?」
「うんっ。朝日とデート行っちゃった。それに駐車場すっからかんだったから他の男優くん達も皆居ないみたいだし……」
「……え?」
「だから今日はこのホテル、ちいちゃん1人でお留守番だねっ」
「……え……?」
「その流れで何で俺の家?」
「だって俺一人っきりなんて怖いいぃ~っ」
「ってことなの。いくらアヤでも泣きじゃくるちいちゃん置いてデートなんか行けないよ」
「あ、ああ。そっか。了解」
「じゃあタクシー待たせちゃってるからアヤもう行くね」
「アヤあぁあ~っ!」
置いていかないで、とアヤの背中にすがりつこうとする千尋をとりあえず掴んで止めておく。その姿にクスクスと楽しそうに笑いながらエレベーターに乗り込んでいったアヤ。
「アヤ行っちゃったああ~! 俺一人やだああぁあっ!」
「コラ千尋。俺は無視?」
「へ……」
羽交い締めにしたまま見下ろせば、うるうると涙が溢れるその瞳と目が合って、
「さ、さっ……佐伯さあんっ!」
「ちょ、近所迷惑」
「佐伯さん佐伯さん佐伯さあんっ!」
「はいはい。ちーちゃんせめてちゃんと歩こうね」
可愛いから良いけど。
ぎゅーぎゅーと抱き付いてくる身体をそのまま引きずってマンションの廊下を歩き、自室のドアを開いた。
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