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「甘えたり拗ねたり可愛いな」

「うう~。暑いぃ~……」 「へばってるねー。暑いの苦手?」 「暑いの嫌い。夏嫌い。あのねー、俺はねー、冬が好きだなー」 「そうなんだ。俺も冬の方が好き。あ、そういえば話は変わるけど千尋くん、」 「なあに佐伯さん、」 「そろそろ服着なさい」  猛暑。暑いなんてもんじゃない。ただの地獄。  各地で次々とおぞましい程の最高気温が叩き出されていく中外出する気も失せ、アイス片手に部屋でゴロゴロ。  花火と浴衣が夏の風物詩というのなら、パンイチでアイスを食い荒らす俺だって風物詩に認定されてもいい筈。 「それが認定されるなら俺がネコミミ付けたら超風物詩だよ」 「意味解んないよ佐伯さん。つかさり気なくアイス横取りすんな」 「うわっ、バニラうめぇ」  もうダメだこの人。  へらりと向けられたいつもの軽い笑顔に冷ややかな視線を送りながら、何個目かのアイスに手を伸ばす。  しばらく二人で黙々と食べていると、ふと思いついたように携帯を取り出す佐伯さん。 「あ、良かったね千尋。今空いてるって」 「へ? なになに? どこが?」 「貸し切りプール。アイスのお礼に今から行きませんか?」 「プール!? マジで!? 行きたい!」  このクソ暑い状況から抜け出せればどこでも良かったけど、プールなんて思ってもみなかった。天国すぎるじゃないか。  と、呑気に考えていたのはそこまでで。 「貸し切り……プール……?」 「うん、どうかした?」  どこかの小さなプールだろうなとは予想していた。  佐伯さんはホスト時代の人脈やコネもあるから、この真夏に貸し切りプール、なんていうのも不思議には思わなかった。  だけど着いたのは何十階建てだよってくらいの高級ホテル。そのフロントを顔パスで悠々と通る佐伯さんに恐る恐るついて歩けば、通されたのはこれまた広くて綺麗な高級プール。 「こ、こんなとこ、なんで貸し切れんの?」 「ここうちの会社御用達の撮影場所なんだよね。社長がここの経営者と顔馴染みらしくてさ、割と自由に使わせてくれるよ」  こんな凄い所をAVの撮影にも使えるなんて、あらためて凄い世界だなと感心する。 。  全面を黒で覆われた暗幕のおかげで真っ昼間なのに夜みたいに真っ暗で。  その壁をキョロキョロと見渡していると、佐伯さんがくすりと笑う。 「カーテン開けた方がいい? ほぼ全面ガラス張りだけど」 「えっ!? なんかセレブ!」 「夜になると夜景が本当に綺麗。でも昼間だから俺はこっちの方が好きかな」  そう言いながら何かのスイッチを押す佐伯さん。  すると、プール内に設置されたライトが一斉に点灯し、真っ黒な壁の中に青いプールが浮かび上がる。 「わぁ、綺麗……」  水で乱反射する光が壁も天井もゆらゆらと彩る。  ロマンチックな光景に、まるで女の子みたいに感嘆の声を上げた。 「はぁ~っ! 楽しかった!」 「ふふ、満足?」 「うん! 佐伯さんありがとう!」  このセレブプールに最初は緊張して後込みしていたけど、慣れてみれば普段のプールと変わらない。  それに貸し切りプールなんて、中学時代に友達で集まって夜中に学校に忍び込んではしゃいだ時以来。なんだかわくわくして、思った以上にリラックスして楽しめた。 「おいで、」 「うんっ」  プールの隅っこ。壁際に寄りかかって手招きする佐伯さんの胸に飛び込む。  だいぶ冷えてきた身体が密着して、そこだけゆっくりと熱を持ち始める。 「あったかい……」 「俺この感覚好きー」  そう言って背中にぎゅっと腕を回される。  こんなロマンチックな場所に居るからか、乙女チックな思考なんかが出てきて。  この感覚、どこで誰と覚えたの?  今まで何人の人にこうやってきたの?  このプールも何人連れてきたの?  ぽんぽんと頭に浮かぶ馬鹿なセリフに思わず苦笑しながら、半ば無意識に佐伯さんにキスをした。 「ン……佐伯さん、俺のこと好き?」 「ふふ、どうしたの」 「答えて、」  すがりつくように首に手を回す。その額にキスを落とす佐伯さんはクスクスと楽しそうで。 「教えて欲しい……?」 見上げれば、赤い唇が綺麗に弧を描いた。

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