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Aya -2-
「ちいちゃん佐伯さん、やっほーっ!」
「あ、アヤ久しぶ……えっ!?」
振り向いた先に立っていたのは、自分の知っている声の主とは全くの別人で。思わずびくりと揺れた手から、撮影用の台本がバサバサとすり抜けた。
Aya -2-
「えっ、アヤ!? どうしたの!?」
「えへへ~。イメチェンしちゃったあっ」
そうニコニコ笑いながらその場でくるりと一回転するアヤ。
腰の辺りまであった、あの綺麗でふわふわのミルクティーブラウンの髪は肩上までばっさりと切り揃えられ、どんなに忙しくても毎日完璧に仕上げられていたメイクも今日は一切手が付けられていない。下地もつけまもカラコンも無い、完全なすっぴん。
短いスカート。ヒールの高い靴。綺麗なネイル。キラキラと光るアクセサリー。
アヤの“女の子”の部分は全部無くなっていて、ユニセックスな服装に身を包んだ少年がそこに立っていた。
「イメチェンってなんでいきなり……てか変わりすぎ! 誰よりも可愛く、がモットーじゃなかったの?」
「ちっちっち。時代は流れていくものなんだよちいちゃんっ。世間的にも男の娘なんてオワコンだしー?」
「そ、そうなの……?」
うんうん、と腕を組んで頷くアヤを呆然と見つめていると、佐伯さんが俺の落とした台本を拾い上げながらアヤに声をかける。
「……次の撮影、大丈夫……?」
「んにゃ? 大丈夫に決まってんじゃんっ。レイプなんて余裕余裕~っ」
「レイプ!? アヤが!?」
「もー、ちいちゃんってばいちいち驚きすぎーっ! じゃあ遅刻しちゃうからお二人さん、またねんっ」
キャッキャと笑いながら廊下をかけていくアヤ。少年のような後ろ姿に、短い髪がふわりと跳ねる。
「びっくり。別人みたいだね……それにアヤって甘々以外一切受けないんじゃ……」
「……心構えが変わったみたい。あの髪も、前回のレイプ物の撮影でバッサリいったんだよね」
「心構え……」
「今までトップでお高くとまってたアヤがとうとう落ちていく。相当売れるだろうって、本部もお祭り騒ぎだよ」
落ちていく、
佐伯さんが悲しそうに呟いた言葉に、アヤの痛々しいくらいの笑顔を思い出して。無意識に胸の辺りをぎゅっと握りしめた。
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