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――ガチャ
「うわ最悪、クサっ」
「きたなーい」
「あははっ! 2人とも止めなって~」
いつの間にか終わっていた撮影。
乱交モノの予定が全く違う物になってしまったけど、監督が喜んでいたからきっとうまくいったんだろう。
シャワールームのドアを開けると、もう既にシャワーも着替えも終えたネコ3人が脱衣所で一服している所だった。
「アヤさんお疲れ様でーす。おしっこ美味しかったですかあー?」
「……」
「あんな男優選んじゃ駄目じゃないですかあー。あいつスカ系で有名な男優なんですよー?」
猫なで声で首を傾げる1人に、あとの2人がゲラゲラと下品な声をあげる。
こいつら知ってたんだ。だから、撮影前のこいつらのにやけた顔は、そういう意味だったんだ。
「社長の愛人……じゃなくてぇ、No.1のアヤさんがあいつと組んだら乱交どころじゃなくなっちゃうしぃ」
「そうそう。アヤさんヒドいですよー。僕たち途中から撮影追い出されたんですよーっ?」
「僕らアヤさんと違って枕営業も愛人契約もしてないから、せっかくのお仕事だったのにねー?」
ねーっ! と不満げに顔を見合わせて声を揃える3人。
白々しい。うざい。社長の愛人だの、枕だの、いつからか男優達の中で広がり始めた、身に覚えのない噂話にはもうとっくに飽き飽きしていたけど。
こいつら最初から、アヤが主役になって撮影追い出される事くらい、全部分かってたくせに。仕事にならない事も、金にならない事も、全部分かってたくせに。
そうまでして、アヤをこんな目に合わせたいのか、
「……」
無言で3人の前を通り過ぎ、奥のシャワールームの扉を開く。
「いい気味、ざまあみろ」
扉を閉める瞬間にぼそりと吐かれた言葉をかき消すように、勢いよくシャワーコックを捻った。
汚い、汚い、
「……っ、」
シャワーのお湯を頭からかぶりながら、必死で身体をこする。
口に指を突っ込んで、胃液しか出なくなるまで吐く。
シャワールームとトイレを往復して何度も何度も繰り返し、もう何時間もこうしているのに、全く綺麗にならない。
自分の身体のどこからかアンモニア臭が漂ってくる気がして。
「くそっ……」
スポンジで強くこすっているせいで、全身が真っ赤にヒリヒリと痛む。
小さく舌打ちしながらシャワーを止めて立ち上がり、タオルで身体を包む。
ここに居るから駄目なんだ。自分の部屋に戻ろう。
帰ったら甘い香りのお香を焚いて、その間にシャワーを浴びて。使うのはいつものバラの香りのボディソープと、髪がサラサラになるシャンプーとトリートメント。
しっかり洗ったらリラックス効果のある入浴剤でまったり。いや、もこもこの泡風呂もいいな。
お風呂から上がったら甘い香りでいっぱいになった部屋で全身にボディクリームを塗って、ふわふわもこもこの可愛いルームウェアを着るんだ。
今日は頑張ったからふわふわのガーリーなメイクに、ブラウンのカラコン。大好きな甘い香りのコロンをつけて、マニキュアはパールピンク。いや、やっぱり濃いめのピンクにしようか……な……、
「……あ……、」
着替えながらうきうきと考えていた予定は、なんとなく目に入った鏡のせいでぶち壊しになった。
いや、ただ現実に引き戻されただけだけど。
今のアヤは、女の子じゃないんだ。
「ははっ、今も何も……お前は元から女じゃねぇだろ……」
鏡に映る、やつれた自分の顔にそう呟いた。
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