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Aya -4-
「でね、その後アヤに連絡電話してみたらもう着拒されてて……」
「ふーん」
「俺もです。メールは返信が無いから見てくれてるかどうかもわからなくて」
「あっ、朝日もそうなんだ。カズは?」
「ふーん」
Aya -4-
「連絡が取れないってなると後は直接しか……でも寝てるのか居留守なのか、いつも部屋に居ないんだよね」
「ふーん」
「そうなんですよね……俺もご飯とか行って息抜きさせてあげたいと思ってたんですけど……カズさんはどう思います?」
「ふーん」
「ちょっとカズ! さっきから聞いてんの!?」
「そうですよ! アヤさんが心配じゃないんですか!?」
スタスタと前を歩くカズに、朝日と一緒に噛みつく。が、逆に不満げな顔で反論され。
「あーもーうるせーな。だいたいお前ら付いてくんじゃねえよ。仕事の……」
「手伝ってるじゃん」
「はい、手伝ってます」
仕事の邪魔。そう言おうとしたカズの目の前に、ちゃっかり一緒に運んできた機材を差し出す。
それを見て呆れた顔をしたカズは、盛大なため息を吐きながら物置になっている部屋に入っていく。
「だいたい心配とか言うけどよ、あれが本来のNo.1の姿ってやつじゃねぇの?」
「本来の、って?」
「仕事選ぶわ見た目女だわファンサービス一切しないわ、その上枕は絶対やらないあいつが5年間もNo.1に居続けてる方がよっぽど異常だろ」
「……」
カズの言葉に朝日と顔を見合わせる。
情けなくて、今にも泣き出しそうな顔。
きっと、俺も今そんな顔してるんだろうな。
「確かにそうかもしれませんが……俺は、前のアヤさんの方が好きです……」
「うん、俺も。自由気ままに好きな格好して、好きな仕事して。今のボロボロになったアヤはもう見たくない」
「だからそれはお前らの勝手だろ?今のアイツに何言ったって……」
ガチャ。突然部屋のドアが開いた。
誰だろ? なんて思いながら呑気に機材の片付けを続けようとした俺を、カズが棚の陰に思いっ切り引っ張り込む。
「ちょっ、何!?」
「うるせぇ、静かにしてろ。ったく、お前らがごちゃごちゃうるせーから変なの湧いてきちまった」
「まあまあカズさん。ゆっくり待ちましょうよ」
変なの湧いてきた?
カズの言葉に棚の隙間から覗いてみれば、顔は見えないが、甘い雰囲気を纏って熱く抱き合う二つの影。
「な……っ!」
「どうした? 知り合い?」
「違う! てか顔見えないから分かんない! てかそうじゃなくて……俺らここに居たらマズいって! 早く出なきゃ!」
今にも事が始まりそうなくらい熱く絡む影。キスの水音まで聞こえてきて、軽くパニックになる。
だがカズと朝日は至って冷静で。
「ここに居たらマズいから隠れてんだよ。絶対バレんなよ」
「このホテルって撮影場所に使われてるから、うちの男優だけじゃなくて監督とか有名事務所の男優とか、色んな人が来るでしょ?」
「う、うん」
「大物同士の禁断の愛……とかも結構多くて、こういう場に出くわしても絶対に目撃者になっちゃいけないんです。後が面倒なことになるので」
「そう。だから俺らはここには存在してねぇし何も見てねぇ。いいな?」
カズの言葉にこくこくと頷く。
な、なるほど。
確かにもしあれが有名な監督の不倫現場だったら、それを目撃した俺らは逆鱗に触れて、その監督の撮影には一切呼ばれなくなる。
それどころじゃない、この広くて狭い業界で生き延びていく事も出来なくなるかもしれない。
「じゃあ差し入れとかどうですかね?」
「会えねぇし連絡も取れねぇのにどうやって渡すんだよ」
「あ、そうですよね。うーん、アヤさんの部屋の前で張り込むとか……」
こんなことは日常茶飯事なのか、室内に響く水音を気にもとめず、コソコソと先ほどの会話の続きをする二人。
俺も見習って会話に参加しようとしたところで、
「弥生、可愛いよ……」
「んっ、あッ、」
どうやらカズと朝日にもその声は届いたらしく、三人で顔を見合わせる。
「弥生って、あの弥生くんですかね……?」
「そう……みたい、」
「ハッ、つい最近まで佐伯さん佐伯さんうるさかったのにもう鞍替えかよ。さすがハッテン場上がりは手が早ぇな」
「ちょっとカズさん。そんな事言っちゃ駄目です。恋愛は自由なんですから」
「恋愛? あのおっさんと?」
カズの言葉に目を向ければ、丁度窓からの光が差し込む場所に二人は移動していて。
男のソコに顔をうずめる弥生くんの姿がはっきりと見えた。
確かに相手は中年の男。とてもじゃないが、弥生くんの恋愛対象には見えない。
じゃあどんな関係なんだろう? 疑問に思っていると、朝日が小さく呟いた。
「あ、れ……? あの人、どこかの事務所の社長……ですよね?」
「は? マジかよ?」
「はい。確か大手の事務所でした。気に入られておけば仕事が貰えると、マネージャーに連れられて挨拶に伺ったことがあります」
大手事務所の社長。仕事が貰える。
そんな人と弥生くんが一緒に居るのって。
「んっ、僕がいっぱいいっぱい気持ちよくしてあげる。だから……」
「分かってるよ。これからもうちの男優は全部弥生に当てる」
「ふふふっ。社長だあいすきっ」
これって……まるで、
「おいおい……枕かよ……」
カズの小さな呟きが、弥生くんの嬌声にかき消されていった。
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