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「弥生が枕……?」  驚いて目を丸くする佐伯さんに、朝日と一緒に強く頷く。その言葉に、近くで撮影の準備をしていた竹内さんも作業を中断して寄ってきて。 「それマジなんスか?」 「確信は持てないけど、それっぽい会話してたの」 「告げ口みたいな事してごめんなさい。でも弥生くんが二位になった事に枕が関係していたら……」 「ちょっと問題だね。相手は誰?」 「この方です。バレないように撮ったから暗くて見にくいんですけど……」 「……」  あの場で撮った携帯の画面を朝日が見せる。  しばらくそれを見つめていた佐伯さんは、無言でノートパソコンを取り出して操作し始めて。 「これ、誰なんスか?」 「Risの社長。有名な男優多く抱えてるからうちも結構お世話になってるんだけど……」  パソコンを見つめながら呟く佐伯さんの言葉に、朝日と顔を見合わせる。  本当に朝日の言っていた人物だった。  じゃあ、もしかしたら…… 「……あー。ここの男優、ほとんどが弥生としか絡んでない」 「え、じゃあ……」 「うん、枕確定だね。この二人、まだ一緒に居るの?」  パタン、静かにパソコンを閉じて立ち上がる佐伯さんに、慌てて答える。 「えっと、これから弥生くんが撮影だからって一旦別れて、またあとで合流しようって言ってた」 「なので一階のロビーでカズさんが待機してます」 「そのまま一緒にホテルにでも入ってくれたら証拠も撮れるかもしれないね。カズに俺もそっち向かうって連絡して」 「は、はいっ!」 「竹くん、悪いんだけど次の撮影ハメ撮りに変更。男優の子もうすぐ来ると思うけど俺抜きでやってくれる?」 「了解っス。ちゃんと証拠押さえてきてくださいね」  任せといて、とにっこり笑って荷物の整理を始める佐伯さん。  そこでふと疑問が浮かぶ。 「その証拠ってどうするの?弥生くん、どうなるの……?」 「うちの社長枕大っ嫌いだからね。報告すればクビは確実……下手したら周りに根回しされてこの業界には戻れなくなるかもね」  この業界に戻れなくなる。そのスケールの大きさに言葉を失う。俺らがたまたま見つけた現場が、弥生くんの人生を変えてしまう。  朝日も同じことを考えたのか、恐る恐る口を開く。 「社長に報告……するんですか?」 「……まあ枕も実力の内って考え方もあるから、社内では社長に隠れて暗黙の了解みたいになってるとこもあるけど……」 「でもアヤは枕なんて一回もしないで五年間No.1やってきてんだ! 今だってボロボロになってまで真っ向から自分の力だけでやってんのに……それを、枕なんかであっさり抜かれたら……!」 「分かってるよ竹くん。大丈夫。俺だって今のアヤはもう見てらんない。ちゃんと報告するから」  俯いて肩を震わせる竹内さんに、佐伯さんが優しく声をかける。  アヤと竹内さん。プライベートでも仲が良くて、二人でふざけあってる所を何回か見た事ある。  アヤのために涙を流すのは竹内さんだけじゃない。俺も佐伯さんも朝日もカズも、みんなアヤが心配で、大切で、大好きで。  アヤはこんなにも愛されてるんだよ?  だから、居場所が無いなんて。そんな悲しい事言わないで、

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