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硬派=軟派
なんだか気持ちが不安定な夜。気晴らしにクラブに行こうと部屋を出たら、丁度エレベーター前に竹内くんの姿を発見。勢いよく抱きついた。
軟派=硬派
「イライラする」
「……人に抱きつきながらそんなん言うのやめて貰えます?」
「へ? あ、ごめんごめん」
あらま。無意識に口に出てたのか。
ちょっぴり反省しながら、エレベーターを待つ竹内くんにぎゅっと抱きつき直す。
ホテル内の施錠確認の途中なのか、右手にはマスターキー。左手は手ぶら。
そんな状況でも直立不動のまま、絶対に抱きしめ返したりしてくれないのはいつものこと。だって彼女居るもんね。同棲中、結婚秒読みのラブラブ彼女。
「何にイライラしてんスか?」
「わかんない。おくすり減らしてる途中だから情緒不安定なのかも」
「アヤが情緒不安定なのはいつものことじゃないっスか」
「えへへ、そうだねっ。でもぎゅーってしてたら落ち着くの」
「何スかそれ」
呆れたような小さな呟きにクスクス笑っていると、目の前の扉が開く。
にゃ、もうエレベーター来ちゃった。
「竹内くん上行くんだよね? 先乗って良いよー。アヤ下だか……らっ……んにゃっ!?」
「……」
「ちょっ……! 竹内くん!?」
腕を伸ばして離れようとした身体は、逆に引かれて竹内くんの胸に逆戻り。
今度はアヤが直立不動で抱きしめられる側。
びっくりして固まっていると、耳元で囁かれる甘い声。
「ぎゅーってしないんスか?」
「んにゃっ!? な、何っ!?」
「落ち着くんでしょ?」
「えっ、えっと……っ!
「何スか?」
「っ、……じゃあ……し、失礼します……」
おずおずと竹内くんの背中に腕を回せば、同時にさらに強く抱きしめられて。
触れ合う部分が熱を持つ。
心臓がバクバクうるさい。
竹内くんの吐息が耳元を掠める度に、肩がびくりと跳ねる。
何これ。まるで処女みたいな反応。ハグなんて何百人の男と何千回もやってきて、死ぬほど慣れてる筈なのに。
真っ赤になった顔を見られたくなくて竹内くんの胸に顔をうずめれば、片手がアヤの髪をするりと掬う。
「髪、また伸ばすんスか?」
「え? あ、えっと……しばらくショートのままでいようかなって。短い方が楽チンだし、可愛いウィッグもいっぱい買ったし」
「そっか、」
「う、うん……えっと……」
「……」
無言が続き、息が詰まる。
どうしていいか分からずに、ただ抱きしめられたまま俯いていると、竹内くんのポケットから鳴り響く着信音。
散々聞き慣れた、彼女専用の着信音。
いつもは大抵えっちしてる最中に掛かってきてたから邪魔で仕方なかったけど、今だけはマジで神の救いに思える。この状況から抜け出せるならなんでもいい。
そうホッと胸をなで下ろすけど、当の本人は電話に出ようとする気配は無く。両腕はがっちりとアヤの背中に回されたまま動かない。
「電話出なよ。彼女でしょ?」
「……」
「竹内くん……?」
顔を上げてみると、なんだか泣きそうな瞳と目が合って。
そのままゆっくりと唇を重ねられた。
「んっ……ン、ちょ、ちょっと!」
「アヤこれから予定あるんスか? なんかオシャレしてますけど」
「へっ? あ、えっと、久々にクラブ行こうかなって思ってて……それより電話出なってば」
もぞもぞと腕を伸ばし、鳴り続ける携帯をジーンズのポケットから引っ張り出してやる。
画面を見れば、着信相手はやっぱり彼女。
はい、と手渡そうとするが、竹内くんはアヤの肩に顔をうずめて。
「……俺にして」
「えっ? 何?」
「適当な男とヤるくらいなら、俺に抱かせて」
「へ……?ちょっ……ン、んむ……っ」
もう一度唇が重なり、今度は深く深く舌が絡む。
力の抜けた手から、未だに鳴り続ける携帯がすり抜けて。ごとんと床に落ちた。
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