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純白=蘇芳
※流血表現注意
「佐伯さん。さっき撮影の帰りにクッキー貰ったから一緒に食べよ」
「クッキーいいね。お茶の時間にしよっか」
純白=蘇芳
コポコポと音をたてるコーヒーメーカーを前に、少し離れた千尋をちらりと見やる。鼻歌まじりに皿にクッキーを並べる無邪気な姿。
(媚薬か……、)
昨日アヤに聞いた、お手製の媚薬の話を思い出す。ただ酒とバニラエッセンスを混ぜただけの、偽物の媚薬。
千尋は単純だし雰囲気に弱いから、興奮材料としての効果はきっと抜群だろう。
「はい、コーヒーお待たせ」
「クッキーも準備出来たよ」
「わ、美味そー」
「自信作って言ってた!」
二つのカップを持ってテーブルへ。
皿に綺麗に並べられたクッキーは、どうやら手作りの物らしい。誰から貰ったの? なんて聞かなくても分かる。菓子作りが得意なアヤしか候補が居ないから。
「佐伯さん、美味しい?」
「うん、美味しい。パソコン作業で疲れてたから嬉しいよ」
「良かったあー」
ニコニコと無邪気な笑顔を見ていると、俺がしようとしている事の卑劣さにチクりと良心が痛む。
うん、でも仕方ない。だって媚薬で死ぬ程喘いじゃう千尋見たいし。問題はいつどのタイミングでって事か……。
ぼんやり考えながら、口に放り込んだ甘いクッキーをコーヒーで流し込もうとカップに手を伸ばす。
が、同じくクッキーを食べ終えた千尋の言葉に、ピタリと止まった。
「なんだ。佐伯さんって媚薬効かないんだね。残念ー」
「……あ? 媚薬?」
「佐伯さんの方に並べたクッキーは全部媚薬入りだったの。でも佐伯さんピンピンしてるし。俺騙されたのかな?」
「っ……、」
唇を尖らせてテーブルに突っ伏す千尋に何故か冷や汗がダラダラ流れる。自分が今まさに考えていた事をやり返されたから?
違う。待った。これ冷や汗じゃない。暑い。マジで、暑い。
「……ねえ、クッキー……誰に貰ったの? アヤ?」
「へ? 伊織さんだけど……わっ! 佐伯さん汗だくじゃん。部屋暑い?」
汗だけじゃない。気付けば自身はガチガチに勃ち上がっていて、心臓がどくどく早鐘を打つ。
視界が色情に染まっていく。
「伊織の、媚薬……ガチの方じゃねーか……」
雰囲気で酔わせる偽物とは違う。
おそらく何かしらの法律に引っかかっているであろう、本物の、魅惑の薬。
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