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3 *
「ふふ、抜いて欲しい?」
「っ、あっ、あ……抜、いて……! 抜いて……!」
「いいよ。抜いてあげる」
必死で頷く俺の顔を冷たい手のひらで包み込んで、キスをして。
その優しい指先が、ナイフの柄を掴んで、そっと押し込んだ。
「いっ……! っ、あぁぁあっ!」
「わ、千尋その顔可愛いー。もっかいやって?」
「やあぁっ! 痛いっ……! 佐伯さんっ! 痛い……っ!」
「ねー早く。さっきの顔して?」
指先でナイフをぐりぐりと動かし、うっとりと目を細める。
泣きじゃくりながら必死で抵抗するが、それはさらに佐伯さんを楽しませるだけ。
「千尋可愛い……大好き……愛してる……」
「いっ! っ、あうぅっ……!」
「愛してる、愛してる……愛してる……」
律動が再開され、イイ所ばかりを激しく突かれる。萎えていた自身をぐちゅぐちゅと扱かれる。
愛の言葉を囁きながら、ナイフで気まぐれに傷口を抉られる。
痛みと快感と恐怖と。色んな感情がぐるぐる回って涙が零れた。
くちゅ、
「……っ……」
ナイフがゆっくり引き抜かれ、溢れ出る鮮血に佐伯さんが唇を落とす。
こくり、こくり、喉を鳴らす音。部屋に広がる鉄の匂い。
中で動く佐伯さんのソレが質量を増していく。今までだって撮影で、モノの大きさを売りにしている男優さんとも何人か絡んできた。でも、その誰よりも、
「う、そ……あっ、あぁッ! 待って……んんぅっ! 待ってぇ……っ!」
「ちゅ……、ン……」
「っ、あっ……! 待って、くるし、いっ……! あぁあア!」
内側から臓器を押し込まれるような圧迫感。
苦しくて、苦しくて、でも俺は知ってる。それさえ馴れてしまえば、あとは死ぬほど気持ちよくなる事を知っている。
だから、顔を上げた佐伯さんの欲情した瞳と目が合った時。思わず身体が震えたのは、きっと恐怖心じゃなくて期待感。
「あっ、ああぁン! んっ、んンぅ……ッ! ああぁア!」
「ン……気持ちいい?」
「あぁン、きもちっ……んんっ、あぁアッ! きもちい……っ!」
「ふふ、俺もきもちー……」
佐伯さんが俺の左腕を緩く引く。
肩がズキリと痛んだが、同時に前立腺をごりごりと突かれ、すぐに意識はそちらへ向かう。
(血の匂い……、)
涙でぼやけた視界の隅に、赤を捕らえる。
左手首に赤い線。まるで俺が自傷行為として自分で切ったかのように付けられた傷。
そこからどろりと溢れてきた鮮血に、佐伯さんがうっとりと目を細める。
舐めて、掬って、吸って、噛んで。
肩の傷を散々愛でた唇は、もう血で真っ赤に濡れていて。
そこから舌が伸び、腕を伝う血をゆっくり舐め取っていく。
背徳感に、背筋がゾクゾクと波をうつ。
佐伯さんの頬が恍惚に染まる。
律動が早くなる。
部屋中を埋め尽くす鉄の香りが、麻薬のように脳内を痺れさせた。
「っ、あぁぁアッ! もう……、もぉ駄目っ……! イくっ、イっちゃ……っ!」
「声枯れてきちゃったね……そろそろイこっか、」
「っ、んンぅ……っ、ああぁっ!」
「千尋……」
「ひあぁ、イっ! っ、ああぁぁあア……ッ!」
頭の中が真っ白になる。
どくどくと中に注がれる熱の感覚に、もう一度小さくイってから、目の前の佐伯さんに左手を伸ばす。
「千尋……愛してる……」
血で汚れた俺の腕を優しく撫でながら、赤い唇が弧を描いた。
――――
「痛くない? 本当に痛くない?」
「大丈夫だってば。痛くないよ」
「本当に? 我慢してない?」
オロオロと眉を下げる佐伯さんに思わず苦笑い。
あれからいつの間にか二人で眠っていたらしく、佐伯さんの悲鳴で目が覚めた。
血に汚れた俺の身体をシャワールームに運び綺麗に洗い流し、綺麗に手当てし、さっきから凄い勢いで謝り倒されている。
「興味本位で媚薬使ったのは俺だし、別に佐伯さん悪くないって。それに、佐伯さんの性癖……えっと、ヘマなんとか? それもちゃんと受け止めるって言ったじゃん」
「でもっ……」
「血、いっぱい飲めて気持ち良かったでしょ?」
「う……あー……、はい、最高でした……」
小さな声で、バツが悪そうに俯く佐伯さん。子どもみたいな姿にクスクス肩を揺らしながら、綺麗に包帯が捲かれた左手首をなぞる。
「それに、俺も気持ち良かったし……」
「え……? 血まみれになって感じるとかお前変態かよ……」
「なっ……! 佐伯さんにだけは言われたくない!」
身を乗り出して叫ぶ。
もう、肩の傷は痛まなかった。
狂った恋人。イかれてる。
でも愛しい。俺しか知らない佐伯さん。このままどんどん、貴方の世界に落として欲しい。そこにずっと閉じ込めて欲しい。
俺はもうきっとここから出られない。
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