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「ふふ、抜いて欲しい?」 「っ、あっ、あ……抜、いて……! 抜いて……!」 「いいよ。抜いてあげる」  必死で頷く俺の顔を冷たい手のひらで包み込んで、キスをして。  その優しい指先が、ナイフの柄を掴んで、そっと押し込んだ。 「いっ……! っ、あぁぁあっ!」 「わ、千尋その顔可愛いー。もっかいやって?」 「やあぁっ! 痛いっ……! 佐伯さんっ! 痛い……っ!」 「ねー早く。さっきの顔して?」  指先でナイフをぐりぐりと動かし、うっとりと目を細める。  泣きじゃくりながら必死で抵抗するが、それはさらに佐伯さんを楽しませるだけ。 「千尋可愛い……大好き……愛してる……」 「いっ! っ、あうぅっ……!」 「愛してる、愛してる……愛してる……」  律動が再開され、イイ所ばかりを激しく突かれる。萎えていた自身をぐちゅぐちゅと扱かれる。  愛の言葉を囁きながら、ナイフで気まぐれに傷口を抉られる。  痛みと快感と恐怖と。色んな感情がぐるぐる回って涙が零れた。  くちゅ、 「……っ……」  ナイフがゆっくり引き抜かれ、溢れ出る鮮血に佐伯さんが唇を落とす。  こくり、こくり、喉を鳴らす音。部屋に広がる鉄の匂い。  中で動く佐伯さんのソレが質量を増していく。今までだって撮影で、モノの大きさを売りにしている男優さんとも何人か絡んできた。でも、その誰よりも、 「う、そ……あっ、あぁッ! 待って……んんぅっ! 待ってぇ……っ!」 「ちゅ……、ン……」 「っ、あっ……! 待って、くるし、いっ……! あぁあア!」  内側から臓器を押し込まれるような圧迫感。  苦しくて、苦しくて、でも俺は知ってる。それさえ馴れてしまえば、あとは死ぬほど気持ちよくなる事を知っている。  だから、顔を上げた佐伯さんの欲情した瞳と目が合った時。思わず身体が震えたのは、きっと恐怖心じゃなくて期待感。 「あっ、ああぁン! んっ、んンぅ……ッ! ああぁア!」 「ン……気持ちいい?」 「あぁン、きもちっ……んんっ、あぁアッ! きもちい……っ!」 「ふふ、俺もきもちー……」  佐伯さんが俺の左腕を緩く引く。  肩がズキリと痛んだが、同時に前立腺をごりごりと突かれ、すぐに意識はそちらへ向かう。 (血の匂い……、)  涙でぼやけた視界の隅に、赤を捕らえる。  左手首に赤い線。まるで俺が自傷行為として自分で切ったかのように付けられた傷。  そこからどろりと溢れてきた鮮血に、佐伯さんがうっとりと目を細める。  舐めて、掬って、吸って、噛んで。  肩の傷を散々愛でた唇は、もう血で真っ赤に濡れていて。  そこから舌が伸び、腕を伝う血をゆっくり舐め取っていく。  背徳感に、背筋がゾクゾクと波をうつ。  佐伯さんの頬が恍惚に染まる。  律動が早くなる。  部屋中を埋め尽くす鉄の香りが、麻薬のように脳内を痺れさせた。 「っ、あぁぁアッ! もう……、もぉ駄目っ……! イくっ、イっちゃ……っ!」 「声枯れてきちゃったね……そろそろイこっか、」 「っ、んンぅ……っ、ああぁっ!」 「千尋……」 「ひあぁ、イっ! っ、ああぁぁあア……ッ!」  頭の中が真っ白になる。  どくどくと中に注がれる熱の感覚に、もう一度小さくイってから、目の前の佐伯さんに左手を伸ばす。 「千尋……愛してる……」  血で汚れた俺の腕を優しく撫でながら、赤い唇が弧を描いた。 ―――― 「痛くない? 本当に痛くない?」 「大丈夫だってば。痛くないよ」 「本当に? 我慢してない?」  オロオロと眉を下げる佐伯さんに思わず苦笑い。  あれからいつの間にか二人で眠っていたらしく、佐伯さんの悲鳴で目が覚めた。  血に汚れた俺の身体をシャワールームに運び綺麗に洗い流し、綺麗に手当てし、さっきから凄い勢いで謝り倒されている。 「興味本位で媚薬使ったのは俺だし、別に佐伯さん悪くないって。それに、佐伯さんの性癖……えっと、ヘマなんとか? それもちゃんと受け止めるって言ったじゃん」 「でもっ……」 「血、いっぱい飲めて気持ち良かったでしょ?」 「う……あー……、はい、最高でした……」  小さな声で、バツが悪そうに俯く佐伯さん。子どもみたいな姿にクスクス肩を揺らしながら、綺麗に包帯が捲かれた左手首をなぞる。 「それに、俺も気持ち良かったし……」 「え……? 血まみれになって感じるとかお前変態かよ……」 「なっ……! 佐伯さんにだけは言われたくない!」  身を乗り出して叫ぶ。  もう、肩の傷は痛まなかった。  狂った恋人。イかれてる。  でも愛しい。俺しか知らない佐伯さん。このままどんどん、貴方の世界に落として欲しい。そこにずっと閉じ込めて欲しい。  俺はもうきっとここから出られない。

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