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イチバン(竹アヤ)*
乱交の撮影だって事前に知ってたら、絶対に絶対にドタキャンしてたのに。
「あんっ、あんっ……!」
「ンっ、きもちぃ、あぁンっ!」
「んぁ……っ、ンっ……」
高い嬌声。激しい息づかい。肌のぶつかり合う音。真っ白な照明が照りつける狭い部屋のあちこちで卑猥な音がする。
腰を打ち付けながら覆い被さってきた男優の吐息を耳元に感じながら、天井をぼんやりと見つめる。
「あんっ、んっ、やぁッ……あぁン!」
今日の夜ご飯は何にしよう。そういえばお昼ご飯もまだ食べてない。撮影の前に食べようと思ってお昼にコンビニで買ったたまごサンド。
一緒にミルクティーも買ったんだよね。あったかいやつ。もう冷めちゃったかな。
(あ、ヤバいヤバいっ)
撮影の邪魔にならない場所に置かせてもらったコンビニのレジ袋。もちろん届くはずもない距離にあるそれに無意識に手を伸ばしてしまい、慌ててその手を男優の首に回す。
「んっ、あぁンっ、きもちいっ……、」
涙で目を潤ませてとろけた表情を作り、高い声で喘いでから回りを見る。
(羨ましいな……、)
一際高くてよく通るアヤの喘ぎ声は全部ただのセリフ。ピンクに染まる頬も濡れる瞳も、全部ただの演技。一番カメラを向けられるアヤの身体は、勃起から射精のタイミングまで全部計算されて動いている。
だから乱交は嫌いなんだ。
快楽を楽しめない、自分の冷静がハッキリとわかってしまうから。
(早く、終われ、)
ぎゅっと目をつぶってから、早々に射精の準備に入る。
アヤがイけば周りも必然的に終わる流れに入るはず。だから早くイって、早く撮影終わらせ……、
「まだ駄目っス、」
「ッ!? ひ、ああぁぁア……っ、」
射精の直前にソレをぎゅっと握られ、大っ嫌いな空イキの感覚が身体中を走る。
死にそうなくらいの快感。大嫌い。
その波を必死で我慢してから、アヤの邪魔をした男優を睨み付けようとしたが、目の前にいたのは意外な人物で。
「なっ……、た、竹内くん!?」
「おはようございまーす。撮影前に佐伯さんから連絡来たんスよ。アヤのフォロー頼むって」
「フォローって……はあ? アヤを誰だと思ってんの? そんなの……」
「しー。声入っちゃいますよ。って事なんで男優さんスンマセン。ここは大丈夫なんで」
一度は動きを止めてアヤ達のやりとりをポカンと見つめていた男優だが、そこはプロ。すぐに状況を把握したようで、アヤの中からモノをずるりと引き抜いて、近くのネコに絡みに行く。
その様子を横目で確認しながら、秘部にあてがわれた竹内くんのソレにびくりと肩を揺らす。
「挿れますね、」
「ッ……、」
色々と不愉快ではあるものの、仕方なく身体の力を抜いて受け入れる準備。
ちらりとカメラの位置を確認。他の絡みの様子や距離も確認して、よりエロく魅せるために位置や体勢を整える。そうやってカメラを向けられる準備をすればするほどにまた気分が沈んでくる。
が、突然その視界が塞がれて。
「なっ!? な、何……ッ、あぁぁあア……!」
いきなり奥まで突っ込まれた熱に、ビクビクと身体が跳ねる。
気持ち良い。違う。駄目。そんなことよりも、
(カメラ、見えない……!)
完璧な撮影を邪魔する思わぬ緊急事態に、頭が反応する前に無意識に体が動く。アヤの視界を塞ぐ竹内くんの手をすぐに掴んで引き剥がそうとするが、同時に前立腺をごりごりと突かれて。
「ひ、あぁぁあアっ……! やめっ、あぁン……!」
「集中しなきゃ駄目っスよ」
「いやぁっ! 出来なっ、ああぁア……!」
動かないで。邪魔しないで。気持ちよくしないで。これじゃ集中なんて出来ない。
竹内くんの手に力いっぱい爪をたてる。そんなアヤの抵抗に、竹内くんはくすりと笑って。
「撮影に集中するんじゃなくて、俺に集中してください」
「ッ……、」
真っ暗な視界の中、耳元で囁かれた低い声にぞくぞくと快感が背中を走る。悔しくて、最後の抵抗でもう一度だけ思いっ切り爪をたてた。
撮影でもプライベートでも、何百人の男達と、何千回もえっちしてきた。
でも、目隠しだけは未だに嫌い。
「ココ、好きっスよね」
「ひっ、っアンッ!やっ、イっちゃ、う…!っ、ああぁぁア……ッ!」
「また中イキ? もー、何回目っスか」
真っ暗な視界で竹内くんがクスクス笑う。
耳元にかかる熱い吐息にびくりと肩を揺らしながら、ごりごりと内壁を擦る熱に身体を震わせる。
いつもより低く聞こえる竹内くんの声に熱を上げて。竹内くんの小さな動きにいちいち過敏に反応して。
何度も何度も快楽の波に引っ張られ、その度に真っ白になる頭をシーツに押し付ける。
「はあッ、もおっ、あぁン!中イキっ、やだあっ…!ッ、出したいの……っ!」
「……」
「お願っ、もぉ無理ぃ…っ、んあぁッ、イかせて、ヒぁァっ!むりっ、出したいよお…っ!」
返事をくれない暗闇に向かって泣き叫ぶ。その間も激しい律動は止まることなく、どろどろに溶けた熱い何かが身体中を駆け巡っていく感覚が怖かった。完璧に計算されたアヤの身体が、制御不能になる感覚が怖かった。
撮影中だなんて事、とっくに忘れて快楽に溺れる。
竹内くんに、溺れる。
「……アヤ、」
「っ! 竹、内くんっ……、竹内くんっ、竹内くん!」
ふと耳元で囁かれた声に反応し、すがるように手を伸ばせば目元を覆っていた竹内くんの手が外されて。
涙でぼやけた視界にいつも通りの穏やかな笑顔を捉える。
「ひっく、んんっ……竹内くん、竹内くん……っ」
「どうやってイきたいっスか?」
「んっ、きもちくして……っ、いっぱいいっぱい……!」
力の入らない腕でぎゅっと抱きついて、暖かい胸に顔をうずめる。
ただのえっちで泣きじゃくって。必死になって。アヤ馬鹿みたい。
馬鹿みたいだけど、気持ち良くて幸せで死にそうなの。
竹内くんとのえっちは特別なの。
「あぁンっ、アヤの中っ、竹内くんのでいっぱいごりごりしてっ……!」
「んっ……」
「それでっ、いっぱいイくのっ……アっ、んんっ、ッ、いっぱい、いっぱい……ッ!」
さらに深く激しくなる律動に頭が真っ白になる。熱い肌がぶつかり合う。身体のどこもかしこも言うことを聞かない。
視界にカメラが入ったけど、今はそんなの知らない。台本だって撮影時間の計算だってどうでもいい。竹内くんしかいらない。
「あっ、ああぁア……、きもちっ、きもちいぃ……っ! やっ、あぁン!」
「……はぁッ、……イ、きそう、」
「アヤもイっちゃ、あぁアっ、ッ!きもちっ、アっ、イくう……っ!」
「……ッ、」
「あぁンっ、イっ、ああぁぁアッ……!」
熱い。熱い。熱い。
やっと吐き出せた精液と一緒に、身体を埋め尽くしていたあのドロドロの熱も溶け出していく気がした。
必死で息を整えながら射精の余韻に浸っていると、竹内くんが微笑みながら優しく頬を撫でてくれた。
「アヤ、お疲れ様っス」
「ん……、」
ふと気づけばアヤの顔は涙とよだれでぐちゃぐちゃになってて、急に恥ずかしくなって竹内くんに抱きついて顔を隠す。触れ合う部分が混ざって溶けてくみたいな、幸せな感覚。
竹内くんの彼女は、こんな暖かさを毎日貰ってるんだ。
(羨ましい……)
ズキン、
痛んだ心に気付かないフリをして、竹内くんの胸の中でゆっくりと目を閉じた。
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