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身体洗ってあげる*
「うー。びしょびしょ……」
買い物帰りに突然の雨。
もうすぐ着くから。5分もしないから。なんて雨宿りもせずに走ってきたら、案の定ホテルに着いた頃には全身びしょ濡れ。
部屋に入るなり脱衣所に一直線して、不快な服達を脱ぎ捨てた。
「天気予報じゃ一日中晴れだったのに。早くシャワー浴び……」
「あ、千尋おかえりー」
「なんでいんの」
浴室の扉を開けて真っ先に視界に飛び込んできたのは、モコモコの泡風呂でアヒルの玩具と戯れる佐伯さんの姿で。
色んな疑問を消化出来ずに扉の前に立ちつくす俺に、佐伯さんが怪訝な顔でビシッと指をさす。
「千尋、寒い。ドア閉めて」
「いや聞きたいこと山ほどあるんだけど」
「俺は特に無いよ? あ、あったわ。ビール買ってきてくれた?」
「買う訳ないだろ」
「えー風呂上がりに飲みたかったのにー」
千尋ってば薄情な奴だよねー? とアヒルに愚痴る佐伯さんに若干の殺意を覚えながら、今度は俺が脱衣所をビシッと指さす。
「とりあえず、俺風呂入りたいから佐伯さん出て」
「えー? 俺さっき雨でびしょ濡れになったんだよ」
「俺も。だから今すぐあったまりたい」
「いきなり降ってきたからびっくりだったよね。はい、シャワー浴びなー」
浴槽の中から手を伸ばし、シャワーコックをひねる佐伯さん。出る気配は無い。
「はぁ……、」
まあいいや。とにかく早くあったまりたい。
小さくため息を吐いてから、シャンプーのボトルを手に取った。
「…………」
「…………」
「……あのー、」
「んー?」
「視線がうざいんですけど」
洗い終えてさっぱりした髪をかきあげながら佐伯さんを睨みつける。
バスタブの淵から身を乗り出して観察されているこの状況。不愉快極まりない。
「いやー、見るでしょ。可愛いもん」
「うざいって。てかそろそろ出なよ。のぼせるよ?」
「あ、身体洗ってあげるー」
「いや人の話聞いて……ちょ、いいって!」
ザバン、と勢いよくバスタブから立ち上がった佐伯さんに、目のやり場に困って慌てて顔を背ける。
「何照れてんの。散々見慣れてんじゃん」
「そういう問題じゃないじゃん!」
「もー可愛いー。痛かったら言ってね」
笑いながら、スポンジを泡立てる佐伯さん。
それが背中に優しく触れて、思わずびくりと肩を揺らす。
後ろからクスクスと笑い声が聞こえる。
なんだか恥ずかしくて、真っ赤な顔で俯いた。
「はい、右腕上げてー」
「ん、」
「千尋相変わらず細すぎ。筋トレさぼってるでしょ?」
「う……、寝る前になると忘れちゃって……」
「日課になるまで俺が毎日手伝うよ。はい、次左腕ー」
人に身体洗ってもらうのなんて、子どもの時以来。なんか気持ちいいかも。
指先まで丁寧にスポンジを当てられ、素直に左腕を預けながら、肌を滑る泡の感覚に目を閉じる。
が、また違う感覚にすぐ正気に戻って。
「待って! 前は自分で洗うって!」
「なんで?」
「なんでって……待っ、」
抵抗しようとした手はがっちりと掴まれ、後ろから抱きしめられる形になる。
もう一度しっかりと泡立てられたスポンジがゆっくりと胸を滑っていき、段々と下に降りていくそれに顔を真っ赤にして俯く。
耳元に吐息がかかる。
密着している背中が熱い。
身体を洗われているだけなのに、するすると滑る佐伯さんの指先が、何故か卑猥に見えて。
「……っ、」
「あれ? 溜まってた?」
「う、るさいっ」
勃ち上がりかけているモノを隠そうとするが、その前にキュッと優しく握られて。
「洗ってあげる、」
「やあっ、やめ……っ、んンっ、」
「こら、暴れないの」
たっぷりの泡を乗せた指先が下腹部を撫でる。ゆるゆると硬くなり始めたソコに指が絡み、羞恥に顔をぶんぶん振って身をよじる。
卑猥な音が狭い浴室に響く。
泡を揉み込むようにぐちゅぐちゅと扱かれ、先走りが溢れるのがわかった。
「気持ちいい?」
「ンっ、やだあ……あっ、」
「ふふ、可愛いー。立てる?」
「んんっ……、」
佐伯さんに支えられながらふらふらと立ち上がる。
手を付いた壁がひんやりと気持ちいい。
「指、挿れるよ」
「んっ、あ……っ、」
熱い指先が内壁を擦る感覚にぞくぞくと背筋が震える。
指だけなんだ、
頭の隅っこでそうがっかりしたのを見透かすように佐伯さんがクスクスと肩を揺らしたのが分かって、さらに顔が赤くなった。
「あっン……っ、あぁア……ッ!」
「ふふ、気持ちい?」
「あっ、ああンっ! んんぅ……っ!」
シャンプーだかボディソープだか知らないけど、たっぷり塗り込まれたそこからは卑猥な水音。
この音も、佐伯さんの息づかいも、自分の喘ぎ声も。全部混ざって浴室に響いて、耳がおかしくなりそう。
それなのに佐伯さんが耳の中くちゅくちゅ舐めるから、ほら、もう、
「やあっ、だめ、だめっ……、やあぁン……っ!」
「ふふ、可愛いー」
「んんぅ……! あぁアっ、あっ、ン……っ!」
ガクガクと震える脚。
目の前の壁に必死ですがりつくけど、力なんて全然入らなくて。爪をたてそうになった指先に、佐伯さんの綺麗な指が優しく絡む。
「あっ、あアぁ……っ! イく、んんぅ、イくぅ……!」
「……いいよ、イこっか」
「っ、あぁン! んっ、やっ……! ああぁぁア……ッ!」
熱い。熱い。全部熱い。
欲を吐き出し、力が抜けて崩れ落ちそうになる身体を佐伯さんが支えてくれて、その場にゆっくりと座り込む。
「はあっ、つ、かれた……っ! のぼせそう…!」
「お疲れ。じゃあその前にもっかい身体洗ってあげるね」
「やだ! もういい!」
「だって汗だく泡まみれだよ? 自分で洗える? その前に動ける?」
「うぅー……」
「はい、まずは背中からねー」
モコモコと泡立ったスポンジを手に、満面の笑みを浮かべる佐伯さん。
もう絶対に、一緒に風呂なんか入らない。
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