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第一章・悠久の彼方に2

「そ、それじゃあ二人はどこにいるんですか!? 二人を見つけないと、はやくっ……!」 「落ち着けブレイラ。二人は冥王と次代の魔王、普通の子どもじゃない」 「分かっていますっ。でも二人はまだ三歳と赤ちゃんです、普通の子どもでなくても、どんなに大きな力を持っていても守ってあげなくてはいけませんっ。だから、だからっ……!」 「ブレイラ、ゆっくり呼吸しろ。大丈夫だ」  動揺する私を支えるように背中にハウストの手が添えられました。  大きな手の平からじわりと温もりを感じて彼を見上げます。  目が合った彼は心配そうに私を見ていて申し訳なくなる。気持ちが乱れて呼吸が浅くなっていたようでした。 「すみません。取り乱しました……」 「一人で気負うな、俺がいる」 「ハウスト……」  彼の名を口にすると、優しく頷いてくれました。  そうでしたね、私は独りではありません。ここにはハウストも、イスラも、皆もいます。  皆がゼロスとクロードを思ってくれている。  ハウストが禁書の魔法陣に手を翳しました。 「この禁書に残る魔力の痕跡を辿れば二人がどこへ転移したか分かるかもしれない」 「それは本当ですか!?」 「ああ。ブレイラ、少し下がっていろ」 「はい」  私が下がるとハウストが禁書に手を翳しました。  ハウストの足元に魔法陣が出現して淡い光を放つ。それに呼応するように禁書の魔法陣も更なる光を放ちます。  緊張が高まる中、しばらくしてハウストの魔法陣が消えました。  でもふいに。 「ハウストっ!」  私は咄嗟にハウストに駆け寄り、彼の体を支えました。  魔法陣が消えた瞬間、ハウストの体がぐらりと傾いたのです。 「大丈夫ですか!? あなた、顔色が……」  ハウストはひどく疲弊しているようでした。  しかしハウストは私の腕をやんわりと離させます。 「心配するな、少し魔力を使い過ぎただけだ」  ハウストはそう言うと何ごともなかったように皆を見回します。  そして最後に私を見て、ゆっくりと口を開く。 「この魔法陣がどこに繋がっているか分かった。――――十万年前、初代四界の王の時代だ」 「初代の、時代……」  愕然としました。  それは私だけではなく、イスラとフェルベオ、フェリクトールやジェノキスまでも驚愕させるもの。  イスラが信じ難いとばかりに問い直します。 「ハウスト、それは本当か? 本当に、二人は十万年前に……」 「間違いない。発動した魔力の余韻を辿った先、そこは十万年前だ」  部屋がシンッと静まり返りました。  重苦しい沈黙が落ちて、フェルベオがハウストを真剣な面差しで見ます。 「これは驚いたな、まさか転移先が初代の時代とは。それで、魔王殿はどうするつもりだ」 「考えるまでもない、十万年前だろうが行くに決まってるだろ。あの二人は俺の第二子と第三子だ」  ハウストが当然のように答えました。  その答えに心臓がドクンと鳴る。それは遠くにいるゼロスとクロードに手が届くという期待! 「ハウストっ……。そ、それは本当ですか!? そんなことが、ほんとうにっ……」 「俺を誰だと思っている。禁書に残っている魔力の痕跡を利用すれば不可能じゃない。今すぐというわけにはいかないが、明日には転移できるぞ。ブレイラも準備しておけ、どうせ一緒に行きたいとか言うんだろ」 「言います! 一緒に探しに行くって言います! でもいいんですか!? 私も一緒に行ってもいいんですか!?」  どんな小さな手掛かりでも構いませんっ、そこに僅かでも可能性があるなら私も行きます! 私も一緒に探しに行きます! 「お前ならそう言うと思っていた。勝手についてこられると面倒だ、それなら最初から連れて行く」  お前には前科があるからなとハウストがニヤリと笑いました。  こんな時だというのに面白がるような笑み。お前のことなどお見通しだと言わんばかりのそれ。  でもそれは私にとって嬉しいものでした。 「ハウスト、ありがとうございます」 「待て! それは認められない!!」 「イスラ……」  声を上げたのはイスラでした。  イスラが険しい顔でハウストを見ていたのです。 「俺は反対だ! なにを考えてるっ、十万年前だぞ!? 俺やハウストはともかく、そんなところにブレイラを連れて行くなんて危険すぎる! ブレイラは普通の人間だ!!」 「分かっている。当たり前だろ」 「ふざけてるのか!!」  怒鳴り返したイスラ。  淡々と答えたハウストにイスラが今にも掴みかかりそう。  そんなイスラにハウストはなにか言い返そうとしましたが、その前に。 「ハウスト……」  私はハウストの腕に手を掛け、首を横に振りました。  イスラが声を上げるのは当然のことです。私は魔力ゼロの人間で、戦う術を知りません。そんな私が一緒に十万年前に行きたいと願うことはワガママなのです。  だから私はハウストの腕から手を離し、イスラの前に進み出ました。  そして深く頭を下げます。

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