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第一章・悠久の彼方に6
◆◆◆◆◆◆
ゼロスとクロードが森に強制転移されて一時間。
二人は城を目指して歩いていた。
だが。
「おしろ、どっちかな~」
どれだけ歩いても城が見えてこない。
空を見上げると枝葉の向こうに青空が広がっている。今はまだ明るいけれど、あと数時間もすれば青空に夕焼けの色が混じりだすだろう。
「クロード、おんぶしてあげよっか?」
「ばぶっ、あうーあー」
クロードはなにやら言い返して、ぷいっとそっぽ向く。そして小さな手足でまたハイハイをして進みだした。
しかしゼロスは慌てて追いかけて前をとおせんぼする。
「ダメ、もうダメ! おんぶするの! ハイハイしてちゃ、おしろつかないでしょ!」
「うー」
「うー、じゃないの! はやくかえりたいでしょ?」
そう、ハイハイは遅かった……。
クロードはシャカシャカと素早いハイハイもできるし、ゼロスとおいかけっこしている時は早い。でもそうでない時は普通だ。おもちゃ箱があれば入れて運べるが、ここにはそれがない。ならばおんぶしかないのである。
ゼロスはクロードの前でしゃがむと、クロードの小さくて丸い赤ちゃんの手をとった。
「おてて、みせて?」
「あいっ」
クロードの手はゼロスの手より小さい。足だって短い。ゼロスも小さいけれど、クロードはもっと小さい。
ブレイラはゼロスとクロードの小さな手を両手に包むと『ゼロスとクロードの手は小さくて可愛いですね』と優しく笑ってくれる。きっとこの手が好きなのだろう。
「おてて、いたくなっちゃうでしょ? ほら、あかくなってる」
「あうー……」
クロードが低くうなった。
自分の手をじっと見つめるクロードにゼロスは閃いた。
「そうだっ、もみもみしてあげよっか。もみもみ、もみもみ」
「あぶっ!? きゃああっ、きゃああ~っ!」
クロードが歓声をあげてころころ転げまわった。おててをもみもみされてくすぐったいのだ。
ゼロスも楽しくなって、クロードの小さな手をもっともみもみする。
「アハハッ、おもしろい~。もみもみ、げんきがでるでしょ? ぼくもブレイラにもみもみしてもらうの!」
「あうーっ、あー!」
パチパチするクロード。どうやら楽しかったようだ。
二人はなんだか明るい気分になってきた。
もみもみすると楽しくなってきたことを、おうちに帰ったらブレイラや父上や兄上にお話ししてあげよう。
ゼロスはクロードに背中を向けてしゃがんだ。
「クロード、のって? はやくかえろ?」
「あぶっ」
今度はクロードも素直にゼロスの背中によじのぼった。
よいしょっとゼロスは立ち上がって歩きだしたが。
「あう~~……」
「ちょっとっ、なんでおちるの!?」
一歩歩くたびにゼロスの背中からクロードがずるずるとずり落ちた。
冥王のゼロスは規格外の力を持っているが、三歳なので肩も背中もおんぶをするには小さくて不安定なのだ。
「あ、そうだ! えっとね、たしかあったはず……」
ごそごそ。肩に斜め掛けしたカバンを漁る。これはゼロスたちと一緒に転移してきたクロードのお出掛け用、赤ちゃんの必需品が入っているのである。
「あった~! クロード、これならだいじょうぶ!」
「ばぶっ、あぶぶ!」
クロードもパチパチして賛成した。
取り出したのはブレイラがクロードに使っている抱っこ紐だ。これを使えばおんぶだって出来るのである。
ゼロスはさっそく抱っこ紐をクロードに巻き付けた。ぬいぐるみで練習もしたし、何度か装着させてもらったことがあるので覚えていたのだ。
「せ~の、よいしょ!」
「ばぶっ!」
クロードが持ち上がってゼロスの背中に装着された。おんぶ完成だ!
「できた! じょうずにできた~!」
「ばぶぶっ、あー」
「ね、これでだいじょうぶでしょ?」
ゼロスが話しかけると、クロードも手足をばたばたさせた。大満足のようだ。今まで意地を張ってハイハイを続けていたが、赤ちゃんなのでやっぱり疲れるのである。
こうしてゼロスとクロードはお城を目指してまた進みだしたのだった。
陽が傾いて、青かった空が夕暮れの色に染まりだす。
森を歩いていたゼロスは立ち止まる。
「くらい……」
「あうー……」
おんぶしていたクロードも困った声をだす。
陽が傾くと森はあっという間に暗くなってしまった。
夜の森は危ないのだとブレイラは言っていた。だから暗くなる前に帰りたかったのに、残念ながら城には辿りつけなかった。
「どうしよ……。ちょっとやすもっか」
「ばぶっ」
夜の森を進むのは危険なので少し休むことにした。
ゼロスは火炎魔法で焚き火を灯す。
夜の森をゼロスとクロードだけで休むのは不安だが、家族で出かけた時に野営することもあるので野外は慣れていた。
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