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第二章・四界の神話1

 目を開けて視界に飛び込んできたのは十万年前の光景。  その光景に私は、私はっ……。 「わ、わあああああ!!」  悲鳴を上げてしゃがみました。  何千本もの鋭い矢が雨のように降ってきたのです。  でも貫かれる寸前。 「面白い歓迎だっ!!」  ハウストが大剣を出現させ、降り注いだ矢を一閃しました。  しかし私たちを襲ったのは何千もの矢だけではありません。  ――――ドドドドドドドドドッ!!!!  地鳴りが響き、土煙があがりました。 「突撃だッ!!」 「一人も逃がすな!!」 「怯むなっ、かかれ!!!!」  四方から怒号があがり、数えきれないほどの武装兵士が突撃して戦闘が始まったのです。  兵士たちは死に物狂いの形相で剣を振るい、目の前の敵と戦っている。  キンキンッ! 剣と剣がぶつかりあう甲高い金属音。肉を貫く音がして、血飛沫が飛び散ります。 「ハ、ハウスト、これはっ……」  目の前の光景に震えが止まりません。  だってこれは戦場の光景。私たちは戦闘中の戦場のど真ん中に転移したのです。 「ブレイラ、俺たちから離れるな」 「は、はいっ……」  私は恐怖と混乱に強張りながらもハウストの背後に下がります。  そんな私を囲うようにイスラとジェノキスが立ってくれました。  イスラは剣を、ジェノキスは槍を構える。この状況に動揺しているのは私だけのようでした。  ジェノキスが向かってきた兵士を槍で薙ぎ払いながらハウストに文句を言います。 「なんて場所に転移したんだよッ」 「俺に言うな。こんな所で戦闘している方が悪い」  ハウストが涼しい顔で言い返しました。  でも大剣を振るう力は容赦なく、一閃して周囲の兵士を蹴散らします。  イスラも圧倒的な剣捌きで兵士たちを圧倒しながら平然と状況を分析していました。 「おい、魔族と精霊族の軍旗だ。魔族と精霊族の戦争なんだからハウストとジェノキスがなんとかしろ」  俺とブレイラに迷惑かけるなと言わんばかりのイスラ。  三人は場慣れした様子で応戦しています。それも当然でハウストは先代魔王の時代に武装蜂起をして戦場に身を置きました。イスラは幼い頃から多くの厳しい戦闘を経験し、今では人間界の戦場で剣を振るっています。ジェノキスは精霊族最強と称される精霊王直属護衛長官、戦場では最高責任者として働きながらも最前線で戦うこともあるのだと聞いたことがあります。  私は三人の邪魔にならないように縮こまっていましたが、ふいに一人の兵士が私に剣を振り翳す。咄嗟に悲鳴を上げて逃げましたが。 「わあっ!」 「ぐはあっ!」  バコッ! 鈍い音がして兵士が吹っ飛びました。  どうやら逃げようと背中を向けた瞬間、大きなリュックサックが勢いよくぶつかったようです。 「……さ、さっそく役に立ちました……」  思っていたような使い方ではありませんが、いいのです。さっそく役に立ちました。  でもそれを見ていたハウストが面白そうに喉奥で笑います。 「なんだ、その為に持ってきたのか」 「違います! ……けど、もういいです」  私はムッとして言い返しつつも邪魔にならないように下がります。  ハウスト達のようにかっこよく戦えたわけではありませんが、とりあえず自分で自分を守れたので上出来でしょう。  こうして突然の戦場で応戦しながら立ち回っていましたが、突出した戦闘力の三人に騒然となる。兵士たちは敵か味方かも分からない私たちに混乱しているようでした。 「どうする、きりがないぞ!」  イスラが襲い掛かってくる兵士を倒しながら聞きました。  ハウストが戦場を見渡します。怒号と轟音のなかで何百何千もの兵士が乱戦状態で戦っている。彼は次に私を見下ろして、身を縮こまらせている私に苦笑して指示します。 「一掃する。魔族と精霊族の戦場のようだが、俺たちには関係ない戦闘だ」  ハウストの周囲に魔法陣が描かれていく。出現したそれは周囲一帯を覆う巨大なもので、言葉のとおり周囲を一掃するのでしょう。  しかし魔法陣が発動される寸前、ハウストがスゥッと目を据わらせます。 「……不快だ。邪魔するなよ」  ハウストが低い声で言い放ちました。  ハウストは巨大な魔法陣を消して、殺気を帯びた目で前を見据える。  私たちの周囲にいた兵士たちが左右に割れて道を作り、その間を悠然とした足取りで歩いてくる男が一人。 「悪いがそれは発動させられない。ここ一帯を壊滅させる気か」 「そのつもりだ」 「尚更好きにさせることはできないな」  男は軽く笑って言いました。  その男の姿に息を飲む。逞しい体躯に長身の美丈夫、端正な顔立ちをした黒髪の男。でもなにより私の目を引いたのはその面差し。少しだけハウストに似ている気がしたのです。  遠巻きに見ていた兵士たちも敵味方なくざわめきだしました。 「魔王様だっ……」 「どうしてこんな前線に魔王様が」 「あれが魔王デルバート……!」  騒然とする中、飛び込んできた『魔王デルバート』という言葉。  私の胸がぐっと締め付けられる。兵士たちが魔王と呼ぶ男は初代魔王デルバート。そう、ハウストの祖先ということ。  デルバートがハウストと対峙します。 「見慣れない四人が現われて敵味方なく攻撃していると報告が入ったが、貴様らのことだな」  そう言ってデルバートが私たちを一人ひとり見ました。  でも私と目が合った瞬間、驚いたように目を見開きます。 「レオノーラっ、どうしてお前がここにいる!」  デルバートはそう声を上げると私へ迫ってきました。  鬼気迫る勢いのそれに驚いてしまう。慌てて下がろうとしましたが、デルバートの手が私へと伸ばされる。  でも掴まる寸前、デルバートの手がぴたりと止まりました。 「それ以上近づくな」  ハウストが大剣の切っ先をデルバートに向けたのです。  一触即発の殺気。ぴりぴりした緊張感に指先が痺れそう。  デルバートの鋭い眼光がハウストに向けられ、睨みあう二人の魔力が高まっていく。  私は指先を握りしめ、デルバートを睨みつけました。

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