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第二章・四界の神話10

「あらまあ、ありがとう。私たちも子どもたちのことは可哀想だと思ってるのよ~」 「善意に感謝します。どうかよろしくお願いします」  レオノーラは淡々と言うと深々と頭を下げた。  そしてゼロスとクロードを振り返る。 「ゼロスとクロードはしばらくここで暮らしてください。フレーベさんのいうことを聞いて、しっかり手伝いをするように」 「レオノーラは? レオノーラはいっしょじゃないの?」 「私は陣営に戻ります。子どもは連れていけません」 「そうなんだ。……またあえる?」 「はい、ゼロスとクロードの里親を探します。なるべく早く見つけるので、それまでここで待っていてください」 「さとおや?」  ゼロスは首を傾げた。 『さとおや』なんて聞いたことがないのだ。ゼロスは里親の意味を知らなかった。 「それでは私はこれで失礼します」  レオノーラがフレーベ夫妻に一礼して立ち去った。  ゼロスとクロードはレオノーラを見送る。よく分からないが、今夜は森で野営しなくてもいいようだ。  こうしてゼロスとクロードはフレーベ夫妻の家に身を寄せることになった。  でも。 「……なに? なんなの?」  ゼロスは自分をじろじろ見るフレーベ夫人に警戒した。  攻撃されそうな様子はないが、ひどく居心地の悪さを感じるのだ。 「汚れてるけど着ている服は上等だね。どこかの良家の子どもだったりしてね。でも捨てられたならその辺の浮浪児と一緒だ。こっちに来な」  フレーベ夫人はゼロスとクロードを家の裏へ連れて行く。家の中に入れてくれるわけではないようだ。  そして家の裏手にある物置小屋の戸を開けた。 「悪いけど、レオノーラさんが里親を見つけるまであんた達はここで暮らしてもらうよ。私たちの家も狭いんだ、ひと部屋しかない家にあんたらを寝かせる場所はなくてね。前の子どもが使ってたままだから寝床はそのままになってる。井戸も庭の隅にあるから、好きに使いな」  フレーベ夫人はそう言うと、「レオノーラさんにも困ったものだわ。厄介ごとを押し付けて」と愚痴りながら家に戻っていった。  ゼロスとクロードは物置小屋に入る。レオノーラが来るまでここがゼロスたちの寝床になるようだ。  狭い物置小屋だが三歳児と赤ちゃんなので狭いと感じることはない。小屋の片隅には藁が敷き詰められている。きっとそこがベッドなのだろう。 「クロード、おりていいよ」 「ばぶっ」  ゼロスはおんぶしていたクロードを降ろした。  二人は並んで物置小屋をぐるりと見回す。突風で飛ばされてしまうんじゃないかとおもうほど物置小屋はおんぼろだ。壁のところどころに隙間があって風が吹き込んでくる。 「おんぼろ……」 「あぶぶ……」  城で暮らしている二人にとって、こんなおんぼろ小屋は初めてである。しかも物置小屋なので人が暮らすために作られた小屋ではない。  でも、おんぼろだけど屋根と壁がある。ずっと野外にいると赤ちゃんは疲れてしまうから、ちょっとだけ安心した。それに井戸が使えるならクロードにミルクを作ってあげられる。  城で育ったゼロスは初めて井戸を見た時は使い方が分からなかったが、ブレイラに教わったのだ。今ではちゃんと井戸で水を汲めるようになった。 「クロード、たくさんミルクつくってあげるね」 「あいっ」  クロードは大きく頷くとお気に入りのハンカチをむにゃむにゃする。屋根のある場所にきて落ち着いたのだろう。  でもお城にいる時よりハンカチを一生懸命むにゃむにゃしていた。ちゅっちゅっとしゃぶったり、むにゃむにゃしたり。  以前ブレイラが言っていた。『クロードはハンカチをしゃぶっていると落ち着くのですよ』と。きっとクロードも寂しいのだ。 「クロード、だいじょうぶ。ちゃんとブレイラにあえるから」 「むにゃむにゃ……。あい、……ちゅっちゅっ」  ゼロスはハンカチをむにゃむにゃするクロードを見つめた。  クロードはゼロスの弟だから、ちゃんと守ってあげる。  ゼロスは強いけどクロードは赤ちゃんだから、ちゃんと守ってあげる。  ゼロスは元気に歩けるけど、クロードはまだハイハイしかできない。だからちゃんとおんぶもしてあげる。  ゼロスがまだ戦えない時、父上も兄上もゼロスを守ってくれた。だからゼロスも父上と兄上と同じことをする。  そしてなによりブレイラはクロードも大好きだ。だからブレイラがお迎えにきた時に元気なクロードを見せてあげるのだ。  ゼロスはカバンから哺乳瓶とミルクの粉を取り出すと、さっそくミルクを作ってあげるのだった。 ◆◆◆◆◆◆  陽が沈み、森はあっという間に暗闇に覆われました。  深い森の中でハウストと私とイスラの三人は焚き火を囲み、地図を広げて現在の状況や情報の整理をしていました。  本来、ここにいるはずのジェノキスは不在です。それというのも彼は今、初代精霊王リースベットと行動を共にしているからです。  そう、私とイスラが初代幻想王オルクヘルムと遭遇した時、ハウストは初代魔王だけでなく初代精霊王にも遭遇していたのです。  そして私たちが広げている地図、これはこの時代の地図でした。ハウストがリースベットから貰ってきてくれたものでした。 「よく似た地形ですが、やはり私たちの時代とは違う所もありますね」 「ああ。この海岸線は俺たちの時代は砂浜になっているが、この時代では絶壁のようだな」  ハウストも関心したように違いを差しました。  他にもたくさんあるようで、一緒に地図を見ているイスラも人間界の地形に興味津々のようです。 「リースベッド様には感謝しなければいけませんね。この地図には村や町も記されています。とても有り難いです」  この広い世界でゼロスとクロードを探しだすのは砂漠に落とした宝石を見つけだすくらい困難なことです。でも地図があれば町や村を訪ね歩くことができる。ゼロスとクロードが村に身を寄せていれば発見できる可能性がゼロではなくなります。

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