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第二章・四界の神話13

「……分かった。そのかわり防壁魔法陣から一歩も外に出るな。何かあれば必ず起こせよ?」 「ありがとうございます! ハウストとイスラの眠りは私が必ず守ります!」 「なんでそんなに気合い入ってるんだ……」  イスラが少し呆れた顔になっていました。  気合いが入るに決まってるじゃないですか、私がハウストとイスラの眠りを見守れるなんて嬉しいことです。 「イスラ、おやすみなさい。気合いを入れて見張りますから安心してください」 「ああ、おやすみ。絶対起こせよ?」  そう言うとイスラは私の頬に口付けて体を横にしました。  私は横になったイスラの前髪を撫でてあげます。そうすると形の良い額が露わになる。整った目鼻立ちは日に日に大人びた造形になっていくけれど、どうしてでしょうね、私には不思議と可愛く見えるのです。 「……ブレイラ、くすぐったい」  イスラが薄っすらと片目を開けて言いました。  じろりと睨まれたけれど、これは照れ隠し。「ごめんなさい、ゆっくり休んでくださいね」と笑いかけてイスラの額に口付けました。  次はハウストです。彼にもしっかり休んでもらわなければいけません。 「ハウスト、あなたも早く休んでください」  ハウストはこの時代に転移して早々に初代魔王と戦闘になったのです。リースベットが乱入してくれたお陰で戦闘は本格的なものにならなかったようですが、それでも大きな力を使ったのですから。 「さあハウスト、はやく横になってください」  ぐいぐいとハウストの腕を引っ張って体を横に倒させます。  ハウストは苦笑しながらも私の好きにさせてくれました。でも。 「ブレイラ、俺にもすることがあるだろ」  横になったハウストが私を見上げて言いました。  じーっと見つめられて、うっと顎を引いてしまう。こういう時の彼はいじわるなのです。  早くしろと目で催促される。もちろん嫌ではないのです。イスラやゼロスやクロードが相手なら何度でもしたいくらい。でも相手がハウストだと思うと恥ずかしいではないですか。  私は困惑してしまう。側のイスラをちらりと見ると、さり気なく寝返りを打ってくれました。呆れた雰囲気が伝わってくるので、きっと寝たふりをしてくれているのですね。  お気遣いは嬉しいのですが、これはこれで恥ずかしい。  こそこそ小声で文句を言ってやります。 「……イスラに気を遣わせてしまったじゃないですか」 「そうか、それは良かった。お前が喜んでいるということだな。お前が本当に嫌ならイスラがそんな気を遣うことはない」 「なんですかそれは」  ……断言されて呆れました。でもそれは間違いではなくて。  私はハウストを見つめて笑いかける。彼の唇にそっと口付けを落とすと、呼吸が届く距離で目が合う。なんだか恥ずかしくて目を伏せると彼が目元に口付けてくれました。  ハウストに腕を掴まれ、ゆっくり引き寄せられる。そのまま彼の胸板に伏せるように身を倒すと、力強い両腕に抱き締められました。そして。 「ブレイラ、大丈夫だ」  ハウストが静かな声で言いました。  胸に染み入るような声に、言葉に、私は彼の鍛えられた胸板に頬を寄せる。目を閉じると瞼の裏にゼロスとクロードの面影が浮かびました。 「ゼロスとクロードは必ず無事でいる。あの二人は強い」 「はい……」 「必ず見つけるぞ。どこにいても探しだす」 「はいっ……。はいっ……、っ」  私は嗚咽を噛み締めて、何度も頷きました。  ハウストの腕が強くなって、私の震える肩を強く抱き締めてくれる。  この夜をゼロスとクロードはどう過ごしているでしょうか。恐くて、寂しくて、泣いているかもしれません。二人を思うと呼吸が止まりそうになる。  諦めません、絶対に諦めません。同じ夜空の下にいるのです。必ず迎えに行きます。

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