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第四章・木漏れ日の場所8

「ハウスト、クロードの服を脱がせてあげてください。私は今から準備するので」 「分かった」  先に服を脱いでいたハウストがクロードを抱っこして連れていってくれる。  ラグに寝かされたクロードは何度も起き上がろうとしていましたが、その度にハウストに阻止されています。 「あぶ、あー」 「クロード、動くな。まだだぞ」 「あぶぅ、あー! あー!」 「なんだ、怒ってるのか?」 「あう~っ、あー!」 「生意気だな。ほら、ハンカチで遊んでろ」 「あいっ」 「……それはいいのか」  あっさりハンカチを受け取って遊びだしたクロード。  ハンカチを丸めたり広げたり、お気に入りのハンカチ遊びです。その隙にハウストは手早くクロードの服を脱がせてくれました。まだゼロスが赤ちゃんの頃は苦戦していたのに、だいぶ赤ちゃん扱いに慣れましたね。やはり子どもも三人目になると違うようです。  ハウストとイスラにゼロスとクロードを任せている隙に私も手早く服を脱ぐ。裸になって、その上に水浴び用の薄手の衣を羽織りました。空の下で素肌を晒すのは好みませんから。 「ブレイラ、クロードを脱がせたぞ」  ハウストがクロードを抱っこして連れてきてくれました。  クロードを受け取ると、丁度ゼロスも走ってきます。 「ぼくもできた! ブレイラ、いっしょにおふろはいろ?」 「いいですよ。でもその前にクロードを洗いますから、ゼロスはハウストに流してもらっていてください」  私はそう言うとハウストにお願いします。 「ハウスト、ゼロスをお願いします。ゼロスはどこを怪我しているか分かりませんから、全身をゆっくり流してあげてくださいね」 「分かった」 「えっ、ぼくちちうえと? ブレイラじゃないの?」 「順番です。クロードが終わったらゼロスを呼びますから、それまで父上に綺麗にしてもらっていてください」 「わかった。じゅんばんね」  少し唇を尖らせましたが納得してくれました。  ゼロスもハウストを見上げてお願いします。 「ちちうえ、ちゃんとながしてね」 「俺が下手みたいな言い方するな」 「だってちちうえにしてもらうと、おめめいたくなるんだもん」 「悪かったな」  ハウストとゼロスが話しながら歩いていきます。全裸で。  イスラもさっさと自分の体を洗ってしまうと、岩風呂でゆっくり足を伸ばしていました。完全にリラックスですね。  私もさっそく石鹸を泡立ててクロードを洗ってあげます。そう、私は石鹸を持参していたのです。それだけではありませんよ、保存食や調味料、針や糸などの日用品、薬を作るための道具も持ってきていました。ここは十万年前の世界なので、なにが必要になるか分かりませんから。  石鹸をもこもこに泡立てると、クロードの小さな体を洗ってあげます。 「あぶぅ、あ~」 「大丈夫ですから、じっとしていてくださいね」 「あう~~」  髪を洗っていると、クロードがぎゅっと目を閉じます。  クロードの短い黒髪を丁寧に洗ってあげて、小さなお顔もハンカチで拭いてあげます。むずむずするのか鼻をぴくぴくさせて、可愛いですね。  小さな眉間に皺を刻んでいて、指でもみもみほぐしてあげます。でも相変わらず気難しい顔のままで、私は目を細めて微笑しました。  いつものクロードに安心します。さっきはとても大きな声で泣いてしまって、その顔に堪らない切なさが込み上げたのです。この子は赤ちゃんながら我慢強い子で、めったに泣いたりしないのです。ましてや激情のまま大きな声で泣くなんてありませんでした。  寂しくて辛い思いをたくさんさせてしまったんですね。 「クロード、終わりましたよ?」 「う……?」  クロードがそろそろと目を開けます。  笑いかけると安心したような顔をして、でもまたいつもの気難しい顔に。あなたはどんなお顔をしていても可愛いですね。 「綺麗なりました。さあ、ゼロスと交替です」  私はそう言うとハウストとゼロスを振り返りましたが、騒がしいやり取りに苦笑してしまう。  どうやらゼロスは顔に水を掛けられてしまったようで、プンプン怒っていました。 「ちちうえ、どうしてぼくにいじわるしたの。ダメでしょ」 「水が顔に掛かっただけだろ。それくらいで泣き言いうな」 「そうだけど、これおふろなの。おけいこじゃないの。だからやさしくして」 「お前な……」  ハウストはイラッとしたようですが、不意に私と目が合います。  じーーっ。じーーーーーっ。私はハウストを見つめました。  ハウストは何かを訴えるような目で私を見てきましたが、ダメです、ゆっくり首を横に振ります。  ハウストが更に目で訴えてきましたが、私はまた首を横に振る。ダメです、あなたの気持ちは分かりますが、しばらくはダメです。  ハウストは顔を引きつらせましたが、優しい顔をつくってゼロスに話しかけます。 「……そうだな、俺が悪かった」 「もうしない?」 「……ああ、しない」 「いいよ! じゃあ、こんどからは『おみずかけるよー』っておしらせしてね」 「…………かけるぞ」 「いいよ~」  ゼロスが小さな両手で顔を覆うと、ザバアァッ、頭からお湯がかけられました。 「ちちうえ、もういい?」 「いいぞ」  顔を上げたゼロスはとても満足そうでした。  ニコニコと嬉しそうなゼロス。ハウストは苦笑しながらもゼロスの濡れた前髪を指で払ってあげてます。イスラも笑ってゼロスを見ていました。  渓谷でお迎えしてから、ゼロスはずっと私にべったりでした。ハウストやイスラにもなにかと「ちちうえ!」「あにうえ!」と話しかけたり、抱っこしろとばかりにしがみ付いたり。  元々甘えん坊ですが、今はとくに甘えん坊になっているようですね。それはまるで離れていた時間を埋めるように。  でも今は私も甘やかしてあげたい。寂しかった時間を埋めてあげたいのです。 「ゼロス、来てください。次はゼロスの番ですよ」 「は~い」  ゼロスが嬉しそうに側に来てくれました。  私は綺麗になったクロードをハウストに渡します。 「クロードをお願いします。ゼロスはどうでした?」 「特に問題はない。内臓を痛めてる様子も骨折もなかった。手の怪我以外にもかすり傷はあるが、それもすぐに治るものばかりだ」 「良かった、ありがとうございます。私もゼロスを洗ったら行きますから、クロードとお先にどうぞ」 「ああ」  ハウストはクロードを抱っこして岩風呂に浸かりに行きました。  岩風呂でハウスト、クロード、イスラと三人並んで気持ち良さそう。  私はゼロスを手招きし、もこもこの泡でさっそく体と頭を洗ってあげます。

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