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第五章・初代四界の王VS当代四界の王(※家族五人)2

『ふふふ、それだけ分かっていれば充分ですよ。ゼロス、もうしばらくお城には帰れないんです。もうちょっとだけ洞窟で暮らしましょうね』 『みんなで?』 『はい、みんな一緒です。いろいろお手伝いしてくださいね』 『やった~、みんないっしょ! ここがぼくたちのおうち!!』  ゼロスの顔がパァッと輝いて、ぴょんぴょんはしゃぎだしました。  ここはゼロスとクロードが二人で寝泊まりしていた洞窟ですが、これからは私とハウストとイスラも一緒です。それを『おうち』だとはしゃぐ姿に目を細めました。  というわけで、私たちは元の時代に帰るためにもここに滞在することになりました。まずはジェノキスと合流しなければなりませんね。  私は洗濯ものを干し終えると、丁度ゼロスもハンカチを干し終わりました。そのあとはイスラのところに駆け寄って、「あにうえ、ぼくもおてつだいしたい!」とイスラの釜土作りのお手伝いをしようとしています。  朝食の時にお手伝いしてくださいねとお願いしたので、張り切っているのでしょう。  でもイスラは疑ってかかります。 「……できるのか?」 「できる! ぼく、じょうずにおしろつくれるし!」 「つみ木遊びじゃないぞ……。まあいい、そこの石をここに積み上げろ」 「はい!」  ゼロスはお利口な返事をするとさっそくイスラのお手伝いを始めました。  私も釜土作りを手伝いたいところですが、先に荷物の整理をしたり、洞窟のなかを片付けたり、クロードにお昼寝させたり、時間はどれだけあっても足りませんね。  そして数時間が経過してゼロスの歓声が聞こえてきました。どうやら釜土が完成したようです。  私は寝起きのクロードを連れて二人のところへ足を向けました。  気付いたゼロスが駆けてきます。 「あ、ブレイラだ! みてみて、ぼくとあにうえでつくったの!」 「凄いです! 見事な釜土ですね!」  立派な釜土に驚きました。これなら野外でもちゃんとした料理が作れます。  クロードも「あぶっ、あー!」と指を差して驚いていました。 「ブレイラ、大きさはこれくらいでいいか?」 「イスラ、ありがとうございます。十分なくらいですよ」 「良かった。不便があったら言ってくれ」 「不便なんてとんでもない。今晩からさっそく使わせてもらいます」  私がイスラと話していると、ゼロスがイスラの隣に並びました。胸を張って背筋を伸ばし、ワクワクした顔で待っています。これは次に褒められるのは自分だと思っている顔ですね。 「ゼロスも上手に作ってくれてありがとうございます」 「まあね! あにうえとぼく、ちからをあわせてがんばったの!」 「はい、がんばってくれました。では、じょうずにお手伝いできたゼロスと、上手にお昼寝したクロードにいいものを見せてあげます」 「ええっ、いいもの!? なに? なんなの!?」 「ふふふ、ちょっと待っててください。イスラ、クロードをお願いします」 「ああ」  私はイスラにクロードを預けました。  三人を待たせて洞窟に戻ると、ゼロスとクロードのために用意したものを持って戻ります。 「お待たせしました。ゼロスとクロードにご褒美です」  そう言ってゼロスに渡したのは、綺麗に洗濯して繕ったシャツ。そう、旅でゼロスが着ていたシャツです。  昨夜、急いで破れた部分を直しました。着替えを持ってきていたので破れたシャツは捨ててもよかったのですが、なぜでしょうね、そんな気は起きなかったのです。  ゼロスはシャツを手にすると驚いたように目を丸めました。 「なおってるーー! ぼくのおようふく、きれいになおってるーー!!」  ゼロスが歓声をあげました。  クロードもシャツをにぎりしめ、むにゃむにゃしようとしたところをイスラに阻止されています。 「……クロード、今はそうじゃない」 「あうー」  クロードは気難しい顔になりましたが、小さな両手でシャツを握りしめていました。喜んでくれているようですね。  ゼロスも嬉しそうな顔で私を見上げます。 「ブレイラがなおしてくれたの?」 「はい、針と糸を持ってきて正解でした。しかも、破れたところを直しただけじゃないんですよ? ほら、ここを見てください」 「えっ、なになに!?」  私はシャツの胸の部分を指差します。そこにあったのは可愛いネコの刺繍。  それを目にしたゼロスの顔がパァッと輝きました。 「ネコさんだ! ブレイラ、ネコさんがいる! ネコさんにゃー!!」 「はい、ゼロスとクロードのシャツに刺繍してみました。ゼロスはネコ、クロードはひよこです。あなたはおしゃれさんですから」 「ぼくが、おしゃれさんだから!?」 「はい、あなたはどんな時でも、どんな辛い旅のなかでも、気高いおしゃれさんです」 「うぅっ、ありがとう! ブレイラありがとう! ぼく、もうおしゃれさんじゃないとおもったの! でもぼく、またおしゃれさん!!」  ゼロスが涙ぐんで言いました。  嬉しそうにネコの刺繍を見つめて、「ネコさんかっこいい!」と感激してくれます。  その姿に私は目を細めました。  あなたが失くしたと思ったもの、私が全部取り戻させてあげます。どんなに傷ついても、あなたは何も失わないのです。 「ぼくのネコさんかっこいい! クロードのもみせて!」  ゼロスがイスラの足元で背伸びします。  でも待ち切れずにイスラの足をよじ登って背中にしがみ付きました。  イスラはクロードを抱っこしたままゼロスを背中にしがみ付かせて大変そう。 「おい、重いぞ」 「はやくみたかったの!」 「だからってよじ登るなよ。ほら」  そう言いながらもイスラがクロードのシャツを広げました。  するとゼロスがひよこを見つけてはしゃぎだします。 「ひよこさんがいる! クロードのひよこさん!!」 「あぶ、あーあー、ばぶぶっ」 「ぼくのネコさんもみせてあげるね。ほら、ネコさんにゃー」 「…………。……にゃ」 「ちがうちがう。にゃー」 「……にゃ」 「にゃ~」 「にゃ」  なー、が限界のようです。クロードはまだ赤ちゃんですからね。  ゼロスも「もう、クロードはあかちゃんなんだから~」と諦めてくれました。  こうして刺繍で盛り上がっていると、丁度ハウストが帰ってきます。

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