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第五章・初代四界の王VS当代四界の王(※家族五人)3

「賑やかだな。なんの騒ぎだ」 「ハウスト、お帰りなさい」  私はハウストを出迎えました。  彼は大型動物を担いでいます。夕食の狩りをしてきてくれたのです。 「ありがとうございました。お疲れ様でした」 「お前こそいろいろ任せて悪かったな。大変だっただろう」 「いいえ、イスラやゼロスが手伝ってくれましたから」 「そうか。これ置いとくぞ、あとで解体する」 「はい、お願いします」  ハウストが仕留めてきた大型動物を降ろしました。  そうしていると、ゼロスがシャツを持ってハウストに駆け寄ります。 「ちちうえ、おかえりなさい! みてこれ、ネコさん! ネコさんがいるの!!」 「ブレイラに縫ってもらったのか」 「うん! ぼくがネコさんで、クロードがひよこさん!」 「そうか、良かったな」  ハウストがゼロスの頭にぽんっと手を置きました。  ゼロスは誇らしげにシャツを広げます。 「ちちうえ、どうおもう?」  質問したゼロス。  ハウストは面倒くさい予感がしたのか、私をちらりと見てきます。  でも私は無言で首を横に振ります。今のゼロスは甘えたいのです、相手をしてあげてください。  ハウストは観念したようにため息をつくと、ネコの刺繍を見ました。 「……どう思うと言われても、猫だな」 「もうっ、そうじゃないでしょ! おしゃれなの! ぼくがおしゃれさんだから、ブレイラがどうぞってつくってくれたの!」 「ああ、そういうことか。……おしゃれだな」 「えへへ、やっぱり! どう? にあう?」 「ああ、似合うぞ」 「やった~!」  ゼロスは嬉しそうな笑顔を浮かべました。  照れたようにニヤニヤ……、ではありませんでした。ニコニコして可愛いですね。 「いいでしょ。ちちうえ、うらやましい?」 「ああ、羨ましいな。羨ましい」  あ、ハウストが面倒くさくなってきたようです。返事がおざなりになってきました。  でもゼロスは構わずに続けます。 「ちちうえもブレイラにつくってもらえば?」 「遠慮しておく」 「そお? ぼくがブレイラにおねがいしてあげよっか?」 「頼むからやめろっ」  ハウストが即座に拒否しました。  先ほどまで投げやりだったのに反応が早いですね。 「私はいつでも縫いますよ?」 「だからだ。今のゼロスが頼んだら、お前なんでも聞くだろ」 「そんなこと…………、……まあ、あるかもしれませんが」 「ほらみろ」  ハウストが呆れた顔で言いました。  悔しいですが……否定できません。  今のゼロスに『みんなでおそろいにしたいの』とかお願いされたら、ハウストとイスラの制止を振り切って刺繍を縫ってしまうかもしれません。魔王と勇者のシャツに……。  ……コホンッ、私は咳払いを一つ。 「さあ、私は今から夕食の準備をします! ハウストは解体を、イスラとゼロスはお風呂の準備をお願いします。クロードは私におんぶされててくださいね」  こうして役目を割り振ります。  ハウストが「誤魔化したな」と見てきましたが、私は気付かない振りをしたのでした。  その日の夕方。  私たちは洞窟の前で焚き火を起こし、少し早めの夕食を囲んでいました。  明日は朝から洞窟周辺を散策しようということになったのです。 「あう~~、むにゃむにゃ、ちゅっちゅっ、むにゃむにゃ、ちゅっちゅっ」  膝抱っこしているクロードが柔らかくしたお肉をむにゃむにゃ噛んだり、ちゅっちゅっとしゃぶったり、おいしそうに食べてくれます。なんでも食べてえらいですね。  そしてここにはもう一人なんでも食べてくれる子どもがいます。 「おいしい~! このおにく、おいしいあじがする!!」 「ふふふ、調味料を持ってきていたんです。肉も魚もしっかり味付けしてありますよ」  調味料も薬味も薬草も、料理に使えそうなものをたくさん持ってきました。  お城で食べていたような料理は作れませんが、調味料を工夫すれば飽きることなく食べられます。 「それに立派な釜土を作ってくれたので、調理法を工夫することもできますから」  そう言ってイスラに笑いかけました。  イスラは私が釜土を使いやすいように考えて作ってくれたのです。ゼロスはつみ木遊びの気分でしたが、イスラは角度や高さを細かく調整していました。  目が合ったイスラは照れ臭そうにしながらも優しい表情で頷いてくれます。 「ブレイラが問題なく使えるなら、それでいい」 「ありがとうございます。なにか食べたいものがあったら言ってくださいね」 「ああ、頼む」  私はイスラやゼロスやクロードがしっかり食事をしているのを見回し、隣に座っているハウストに目を向けました。 「ハウスト、この辺りの森はどうでした?」 「特に危険な動物や場所は見かけなかったが、見覚えのある地形が幾つかあったな」 「この辺りは私たちの時代では魔界の南都でしたよね」 「ああ、景色は違うが地形は面影がある」 「そうですか、あとで地図を確認してみませんか? 元の時代に戻ったらフェリシアに話してあげたいです」  今度の四大公爵夫人会議の話題は決まりましたね。きっとあの厳格なダニエラだって興味津々に聞いてくれるでしょう。  元の時代に帰ってからのことを想像するとワクワクします。  こうして私たちはおしゃべりを楽しみながら食事をしていましたが、不意にハウストとイスラの様子が変わりました。  警戒を強めた二人に私も緊張してしまう。 「ハウスト、どうしました?」 「どうやら客のようだ」 「え、客って……」  ハウストとイスラが闇夜の森を見据えています。  私もその視線を追って見ていると、少しして二つの人影が見えました。  人影が月明かりに照らされて、その姿が近づいてきます。 「ええっ……!?」  見えた二人の姿に息を飲みました。  ハウストとイスラも驚いた様子で凝視しています。  なぜなら一人はイスラと重なる面影があり、もう一人は私と瓜二つの容貌だったのですから。

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