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第五章・初代四界の王VS当代四界の王(※家族五人)5

「あなたは冥王です。だからこそ知らなければなりません。想像しなければなりません。考えなくてはなりません」  ゼロスがごくりと息を飲みました。  幼いながらも真剣な顔で話しを聞いてくれます。 「私にも親はいません。子どもの頃は孤児院で育てられました」 「っ、そうだったの!?」 「そうです。孤児院に保護されていなければ、きっと私は生きていませんでした。私はゼロスのように大きな力を持っていないので、狩りをすることができず飢えて死んでいたでしょう。子どもが一人で生きていくのは、とてもとても難しいことなんです」  私自身も子どもの時にそれが分かっていたかといえば、答えは否です。孤児院にいた時は早く大人になって出て行きたいと思っていました。大人になれば独りでも生きていけると思っていました。  でも今は、子ども時代に保護されていたから大人になるまで生きられたのだと分かります。多くの人に支えられて今があるのだと分かります。  だから、どんな無力な子どもも、どんな強大な力を持った子どもも、四界の王だったとしても、守ってあげなくてはいけません。願わくば、どんな子どもにも温かな場所が与えられますように。  見るとゼロスは目を丸めて私を凝視していました。  少し難しかったようで、「うーん、うーん」と考えています。 「今は分からなくてもいいですよ。でも、そういう子もいるのだと忘れないでください。今は分からなくても、あなたの胸にとどめておくのです。できますか?」 「で、できる!」  ゼロスが背筋をピンッと伸ばしてお返事してくれました。  たくさん考えようとしてくれるゼロスに目を細め、いい子いい子と頭を撫でてあげます。 「良いお返事です。創世の王であるあなたは夢を見てください。自由で大きな夢を」 「じゆうで、おおきなゆめ?」 「はい、創世の王だからこそ何ものにも縛られない自由な夢を。際限のない大きな夢を。創世のまっさらな世界だからこそ描ける夢があります」  そう、ゼロスの冥界は創世期。ゼロスが生きている間に、人間界の人間や魔界の魔族や精霊界の精霊族のように冥界の盟主となる生物が生まれることはありません。  でもだからこそ、創世の王にしかできないことがあるのです。 「遠い未来、冥界で生まれるすべての方々が幸せに暮らす夢です。あなたの夢は冥界の礎、それは道しるべとなって冥界を導くでしょう」 「いしずえ……、ラマダもいってた」 「そうです。覚えていてえらいですよ?」 「えへへ。ぼく、ステキなめいおうさまだから、わかるの!」 「はい。あなたの大きな力は、大きな夢を叶えるためにあるのです。大きな力は上手に使ってくださいね」 「はい!」  ゼロスの大きなお返事。  いつもの元気が戻ってきましたね。 「ではクロードをこちらに」 「はいどうぞ」  ゼロスが小脇に抱えていたクロードを渡してくれました。  私はクロードを抱っこし、もう片方の手をゼロスへ差し出します。 「私と手を繋ぎましょう。今は手を繋いでいてください」 「うん!」  ゼロスが大きく頷いて私と手を繋ぎます。  すると抱っこしていたクロードが「あぶ、あー」とゼロスに話しかけて、私と手を繋いでいるゼロスも照れ臭そうに「ぼくおててつないでるの」と返していました。  二人の姿に目を細めます。どうか私の側にいてください。二人が大人になって、私の元から旅立つその時まで。  こうして私はクロードを抱っこし、ゼロスと手を繋いでハウストのところに戻りました。 「すみません、お待たせしました」 「いや、いつも任せて悪いな」 「いいえ、ゼロスやクロードとお話しできてよかったくらいです」 「そうか」  ハウストは頷くと、クロードとゼロスを見ました。  ハウストの大きな手がクロードの頭にぽんっと置かれます。するとクロードは「あうー」と手を伸ばしてハウストの手を捕まえようとする。でもまだ短い腕では届かなくて悔しそう。  ぶー、クロードの怒った顔。ハウストはクロードの小さな鼻を軽くつまんで構うと、次はゼロスを見下ろします。  ゼロスは私と手を繋いだまま恥ずかしそうにハウストを見上げました。 「ぼく、びっくりしてプンプンしちゃったの……」 「もういいのか」 「うん、だいじょうぶ」  ぽんっ、ハウストがゼロスの頭に手を置きました。  大きな手にゼロスがくすぐったそうに肩を竦めます。  こうしてハウストは改めて初代イスラとレオノーラを見ました。 「待たせたな。無礼をすまなかった」 「いえ、気にしていません。私の方こそいらぬ事をしてゼロスとクロードに不安な思いをさせました。……あの、それで、皆さまのご関係は……? ……ゼロスは、父上や兄上と言っていましたが……」  レオノーラが困惑しながらも聞いてきました。  私たちを見て不思議そうな顔をしています。  その反応に苦笑してしまう。私たちは家族ですが、見ての通り全員男ですし、血が繋がっているわけではありません。十万年後の四界では私たちはすっかり自他ともに認める家族ですが、初めて目にした方は驚くでしょう。  私は説明しようとしましたが、その前にゼロスが誇らしげに教えます。 「ぼくのちちうえ! まおうしてんの!」  ゼロスが私の手から離れてハウストに駆け寄りました。  ハウストの足によじ登りながら、ちちうえ! と嬉しそうに主張します。 「えへへ。ぼくの! ぼくのちちうえ! ね、ちちうえ?」 「そうだ。だが人によじ登るな」 「は~い」  ぴょんっとゼロスは飛び降りて、次はイスラの元に駆け寄りました。

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