49 / 262

第五章・初代四界の王VS当代四界の王(※家族五人)6

「ぼくのあにうえ! ゆうしゃしてんの!」  そう言いながらゼロスはイスラによじ登っていきます。  イスラの背中におんぶのようにしがみ付いたゼロスは、「あにうえ、あいつにえいってして」と初代イスラを指差してこそこそ話していました。  そのゼロスらしいといえばゼロスらしい様子に笑ってしまいます。怒りが落ち着いたと思っていましたが、レオノーラはともかく初代イスラにはやり返したい気持ちがあるようですね。 「一人で倒せばいいだろ」 「えぇ~、あにうえにえいってしてほしいのに~」  ゼロスは不満そうな顔をしながらも、ぴょんっとイスラから飛び降りて私の元へ。  私と手を繋ぐと、次にクロードを指差します。 「これぼくのおとうと! あかちゃんだけど、つぎのまおうなんだって!」 「ばぶぶっ」  クロードが返事をするように手足をバタバタさせました。  そして次は私ですね。ゼロスは私を見上げて笑顔になります。 「ぼくのブレイラ! いまはちちうえとけっこんしてるけど、つぎはぼくとけっこんするの! ね、ブレイラ?」 「ふふふ、ゼロスは可愛いですね」 「えへへ。フェリクトールにきれいなおようふくよういしてもらって、ちちうえにおっきなおしろつくってもらおうね。ぼくとブレイラのおしろ。たのしみだなあ~」  ゼロスが恥ずかしそうに壮大な夢を語ってくれました。  良かった、もう完全にいつもの調子ですね。  ハウストはイラッとしたようですが、……私は首を横に振ります。がまんです。がまんですよハウスト、もう少しだけがまんしてあげてください。もう少しだけいつもより甘やかしてあげたいじゃないですか。  私はゼロスの見えないところでハウストに手振りでお願いしていましたが、ふとレオノーラがハウストと私を見ていることに気付きます。 「どうしました?」 「あ、いえ……、その、お二人は結婚してるんですか……?」 「はい、ハウストと私は結婚しています。イスラとゼロスとクロードは私とハウストの子どもですよ。私たちは家族なんです」 「そうですか……」  レオノーラは驚きながらも納得してくれました。  でも、時折レオノーラが複雑な顔でハウストを見ているような気がするのは気のせいでしょうか。  ハウストは涼しい顔をしていますが、……気付いてないはずないですよね。  …………。……なんでしょうか、ちょっと面白くないんですけど。  その時、今まで黙っていた初代イスラが呆れた顔を私たちに向けました。 「――――馬鹿らしい」  初代イスラの吐き捨てるような声。そしてハウストとイスラとゼロス、私が抱っこしているクロードを順に見ます。 「お前らが家族だろうが仲間だろうがどうでもいい。それより何者だ。特にお前、どうして俺と同じ力を持っている」  初代イスラがイスラを睨み据えました。  殺気を帯びたそれにイスラの闘気も爆発的に膨れ上がります。  またしても一触即発の空気になって慌ててしまう。 「イスラ、いけませんよ? こんな所で戦ってはいけません」 「……分かってる」  イスラが闘気を収めてくれます。  でもそんなイスラを初代イスラが嘲笑いました。 「いいのか、俺はいつでも相手できるぞ?」 「なんだと?」  イスラの眼光が鋭くなりました。  初代イスラのあからさまな挑発にイスラの闘気が再び高まってしまいます。さっき分かったと言ってくれたばかりなのに。 「イスラ、ここへは喧嘩しに来ているのではありません。あなたもいちいち挑発しないでくださいっ」  私はイスラを宥めて、次に初代イスラに注意します。  好戦的なのは二人とも同じですが、初代イスラの方はそれに加えてやたらと刺々しいというか、剣呑としているというか……。イスラと面影が重なる部分がありますが、中身はだいぶ違うようですね。 「あなたもご用件があってここに来たんですよね? 当初の目的を思い出してください。喧嘩をしていては話しができません」 「ちっ……」  初代イスラが舌打ちしながらも闘気を収めてくれました。  その舌打ちもイスラは気に入らなかったようですが、いけません。怒ってはいけませんよイスラ。  私はハウストを見ました。初代イスラとレオノーラがどんな用件でここを訪れたかは分かりませんが、まず私たちのことを話さなければ平和的に物事を進めることは難しいでしょう。  それにオルクヘルムやリースベットには私たちが時空を超えて転移してきたことを見抜かれていました。ということは、同じ初代四界の王である初代勇者イスラや初代魔王デルバートも気付いているはずです。 「ハウスト、私たちのことを話しておきましょう。この方々には隠し通せませんから」 「ああ、仕方ない」  私は初代イスラとレオノーラに今までの経緯を話しました。私たちがこの時代に転移したのはゼロスとクロードを助ける為なのです。  話しを聞いたレオノーラはゼロスとクロードを見て納得した顔になります。 「そういうことでしたか。この時代の子どもにしては違和感を覚えていましたが納得しました。『冥界』というのはよく分かりませんが、とりあえずそれは幻想界のことですね」 「ううん、ちがう。めいかい」  ゼロスがすかさず訂正しました。  でもこの時代は冥界ではなく幻想界が正解なのですよ。あとでゼロスにも説明しなければいけませんね。  私はゼロスを宥めて話しを続けます。 「納得していただけたようで良かったです。ジェノキスと合流して時空転移魔法陣の発動条件が整い次第、私たちは元の時代に帰ります。それまではこちらの時代でお世話になりますがご迷惑はかけませんので」 「……今すぐ帰るというわけにはいきませんか?」  レオノーラがおずおずと聞いてきました。  どういうことか聞き返そうとしましたが、その前に初代イスラが遮ります。 「レオノーラ、悪あがきはやめろ。そいつらをこのまま帰らせるわけにはいかない」 「しかしっ……」 「黙れ」  初代イスラがレオノーラを黙らせました。  不穏な雰囲気に息を飲む。だって初代イスラは私たちを帰らせないと言ったのです。

ともだちにシェアしよう!