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第五章・初代四界の王VS当代四界の王(※家族五人)7
「……帰らせないとはどういうことでしょうか?」
「そのままの意味だ。お前らは人間と魔族に宣戦布告をした。まさか忘れたわけじゃないだろうな」
「あっ……」
全身から血の気が引きました。
そうでした! ゼロスとクロードを見つけた喜びと興奮ですっかり忘れていましたが、あの渓谷で私たちは人間対魔族の戦争に立ち入ったのです。戦闘を強制停止させた挙げ句に魔王軍と勇者軍の兵士に撤去作業まで手伝わせて……。
おそらく渓谷の戦いでは双方の軍になんらかの重要な作戦行動が課せられていたのでしょう。それは渓谷に仕掛けられていた大規模な特殊工作魔法陣からもうかがい知れますが、それをすべて台無しにしたのです。
「あ、あの時はゼロスとクロードが崩落に巻き込まれてしまったんですっ」
「どんな理由があろうと関係ない」
初代イスラは淡々と言いました。取り付く島もない口振りです。
たしかにあれは戦闘への介入で、私もそれを承知していました。しかしこうして初代勇者を敵にしてしまうなんて……。
私は困惑しましたが、ハウストは口元に楽しそうな笑みを浮かべます。
「それで、どうするつもりだ。ここを囲むか?」
「ええっ!」
私は想像して青褪めました。
この洞窟が数えきれないほどの兵士に囲まれては私など成す術はありません。
しかし緊張する私を置いて、話しは予想外の方へ転がりだします。
「いいや、軍を動かすつもりはない。兵力を無駄に削ぐ気はない」
「賢明な判断だ。俺としても祖先を殲滅するのは避けたいところだ」
「殲滅っ……」
物騒すぎるハウストの言葉にびっくりしました。
そう、ハウストは最初から黙っている気などなかったのです。ここにいるハウストやイスラやゼロスが反撃すれば兵士などひとたまりもないでしょう。
しかしそれは初代イスラも分かっていたようで動じる様子はありません。
「軍を動かすつもりはないが、お前らが目障りなことには変わりない。だから俺が潰す。十万年後の王だろうと関係ない」
「なるほど、分かりやすくていい。異論なしだ」
答えたのはイスラでした。
イスラは好戦的な笑みを浮かべて初代イスラと対峙します。
そんな二人の様子に私はハウストを見つめました。
「ハウスト、本気ですか?」
「お前は不満かもしれないが、これは最善だ。分かってるだろ」
「それは分かっていますが……」
そう、私にも分かっています。
きっとそれが最善で、最小限の被害で済むだろうということも。実際ハウストたちが軍隊を相手に戦えば被害は甚大なものになるでしょう。しかも相手は私たちの祖先です。
でも、だからといってハウストやイスラが戦うことを手放しで喜ぶことはできません。
しかしそれは私だけの様子。
初代イスラは満足そうに頷きました。
「決まりだな、三日後に渓谷に来い。そこで決着をつける」
初代イスラはそう言うと口元にニヤリとした笑みを浮かべました。
好戦的なそれはイスラにも通じるもので、対峙する二人は闘気を纏います。
そんな二人の様子に私は焦ってしまう。だって初代イスラはとても楽しそうに見えました。
「用件はそれだけだ」
初代イスラは踵を返し、元来た道を立ち去っていきました。
レオノーラはそれを追いかけようとして、でも私たちを振り返ります。
「突然すみませんでした。ですが、……あなた方の介入はとても大きな問題になっているんです。デルバート様もあなた方の存在に黙っているとは思えませんから」
「デルバートとはここの魔王のことだな」
ハウストが確かめるように聞きました。
するとハウストに見つめられたレオノーラが一瞬恥ずかしそうに目を伏せて、さり気なく顔を逸らす。目元を仄かに赤く染めて……。
それは一瞬の反応でしたが私は見逃しませんでしたよ。…………困りました。こんな時だというのに妙な胸のざわつきを覚えてしまいます。
抱っこしているクロードが「……あう?」と私を見て首を傾げたので、なんでもありませんよと笑いかけました。これは私とハウストの問題ですからね。
レオノーラが真剣な顔で私たちを見て、深々と頭を下げました。
「この時代のイスラ様はあなた方と戦う気持ちが強いですが、……私は戦ってほしくないと思っています。どうか、できることなら三日後の戦いの日までに元の時代に帰ることはできませんか? その為なら私は協力を惜しみません」
「いいのか、勝手にそんなこと言って」
イスラが少し心配した口調で聞きました。
誰が見ても初代イスラとレオノーラの主従関係は良好とは思えないものでしたから。
「……きっと怒られてしまいます。でも、それでもお願いしますっ。あなたとイスラ様に戦ってほしくありません……!」
レオノーラは控えめながらも切々とお願いしてきました。
どうしても戦ってほしくない気持ちが強いようです。
憂えるレオノーラにイスラが目元を和らげ、少しだけ優しい表情を向けました。
「そうか、あんたの気持ちは分かった。だからブレイラと同じ顔でそんな顔するな、落ち着かなくなるだろ」
「それじゃあっ……」
「そうしてやりたいけど、俺はやめる気はない」
「そんなっ……。あなたは殺されたいんですかっ!?」
「――――なんだと?」
イスラの表情ががらりと変わりました。
あ、いけません、イスラの機嫌がまたしても急下降。優しい顔を向けていたのに、ぎろりっとレオノーラを睨みます。
「俺があいつより弱いって言いたいのか」
「そ、そういうわけでは……。しかしイスラ様に対抗できるのはこの世界でも魔王様や精霊王様や幻想王様しかいません」
「勇者なら当然だろ。俺も十万年後の勇者だ」
「そうかもしれませんが……」
レオノーラは困惑しながら黙り込みました。
そんなレオノーラにイスラがため息をつく。でもイスラが自分の意志を曲げることはありません。
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