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第五章・初代四界の王VS当代四界の王(※家族五人)8

「悪いが、俺は初代を倒して歴代最強になる」 「歴代最強……?」 「そうだ。あいつが初代なら、それだけで戦う理由になる」 「…………分かりました。でもくれぐれもお気を付けください」  レオノーラはそう言うと、また私たちに深々と頭を下げました。 「それでは失礼します。あなた方のことは麓の村にも話しておきますので、なにか必要なものがあれば村の方々にお訪ねください」 「ありがとうございます。フレーベさんには改めて挨拶に伺うとお伝えください」  私もお辞儀して答えました。  こうしてレオノーラも立ち去っていき、私たちはそれを見送りました。 「ハウスト、大変なことになりましたね」 「ああ。だが第三勢力として介入したにしては悪くない事態だ。兵を使った全面戦争になることは俺も避けたかった」 「そうですね」  私は頷きながらもイスラを見つめました。  ハウストの言う通り最悪の事態を避けられたことは間違いありません。でも初代勇者と戦うことになったイスラが心配でした。 「ねえブレイラ、あにうえ、あいつとたたかうの!?」  今まで話しを聞いていたゼロスが興味津々で聞いてきました。  苦笑して頷くと、ゼロスはパァッと笑顔になってイスラに駆け寄ります。 「あにうえ、あいつやっつけるの!? やった~っ、えいってしてほしかったの!! ぼく、がんばれーってするね!!」 「……邪魔するのか?」 「ちがうもん、おうえん!」  ゼロスが嬉しそうにイスラの足元ではしゃいでいます。  イスラは軽い調子であしらいながらも、三日後に決まった初代勇者との戦いを楽しみにしているようでした。  でも私はどうしても落ち着かない気持ちになってしまいます。  イスラの強さは知っていますが相手は初代勇者。今まで戦ってきた相手とは違います。 「ハウスト、イスラは大丈夫でしょうか……。……イスラは勝てますか?」  私は困惑しながらも訊ねました。  私は戦いに関してまったくの素人なので分かりませんが、ハウストなら初代イスラの戦闘力を計れるはずなのです。 「そうだな……、殺す気になれば五分五分かもしれんが、イスラはこういう時に殺し合うような戦い方はしないだろ。イスラがするのはどちらが純粋に強いかの競い合いだ」 「そうですね、イスラは無意味な殺生を好む子ではありません」 「ああ、そうだ。だがそれはイスラが優位にあるから可能なことだ。しかしそうでない相手と戦った時、それはイスラにとって足枷になるだろう」 「え、それじゃあ初代イスラはイスラを本当に殺す気でっ……」 「そう考えられる。見たところ初代勇者は殺すことに躊躇いを覚えるような男じゃない。戦闘力が拮抗している相手なら尚更だ」 「そんなっ……」  私は唇を噛みしめました。  どうしても最悪の事態を考えてしまうのです。 「……なんとか止められないでしょうか」 「無理だろ。俺がイスラの立場でも戦うことを望む」  ハウストにあっさり断言されてしまいました。  もう少し悩んでくれてもいいと思うんですが。  じーっと見ていると、ハウストがなんとも居心地悪そうに顎を引きます。 「……そんな顔で見るなよ。聞かれたことに答えただけだろ」 「…………そうですけど」  ……いけませんね、少し恨みがましい顔をしていたようです。  私は小さくため息をつくと、ハウストとイスラとゼロスを見ました。 「あなたもイスラも戦うの好きですよね」 「そうだな、嫌いではないな」 「ゼロスも初めて戦闘に参加してから好戦的になりました。なにかあると『やっつけてやる~』とすぐに飛び出していくんですよ。以前はお稽古の手合わせすら嫌がって私の後ろに隠れていたのに」 「自信がついたんだろ。悪いことだとは思わんが」  あれでも冥王だからなと答えながらも、ハウストはちらちら私の様子を見ています。一応、私の機嫌も気にしてくれているのですね。  ……私には不安な気持ちもありますが、これでもハウストの言い分も分かるのです。イスラとゼロスは四界の王ですから誰よりも強くなくてはいけません。今は赤ちゃんのクロードだっていずれ次代の魔王として剣を握るのです。それは絶対でした。  でもね、でも、剣を握れない私はどうしても惑ってしまうのです。 「……私は、あなたやイスラやゼロスの一番の理解者になりたいと思っています。でも」  言葉が続けられませんでした。  どんなに理解者になりたいと願っても、私はハウスト達と背中を預けあって剣を握ることができないのです。それは同じ苦難を分かち合えないということ。それなのに一番の理解者になりたいなんて、私のワガママですね。  私は誤魔化すようにそっと笑いかけました。 「……許してくださいね。私はあなたのようにイスラと初代イスラの強さを比べることもできません。だから余計に不安になるのです。……あなたやイスラにはきっと窮屈な思いをさせてしまっていると思いますが」 「気にするな。それは俺もイスラも承知している。こればかりは理屈じゃないからな」 「ハウスト……」 「イスラだってお前を不安にさせていることに気付いている。そのうち機嫌伺いでもしてくるはずだ、その時は弁解を聞いてやれ」  ハウストが最後は軽い調子で言いました。  そんな彼に私の緊張が少しだけ解れます。 「イスラに弁解されたら絆されてしまいそうです」 「お前、イスラに甘いからな」 「味方だと言ってください」 「……少し妬ける」 「ふふふ、私はあなたとイスラとゼロスとクロードの味方ですよ。なにがあっても」  戦う力を持たない私ですが、これだけは絶対です。  でもね、そうは言っても心配がなくなったわけではないのです。レオノーラは初代魔王デルバートも私たちを注視していると言っていました。それはこの時代の人間と魔族を敵に回したのも同然ということ。

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