52 / 262
第五章・初代四界の王VS当代四界の王(※家族五人)9
「ハウスト、オルクヘルム様とリースベット様に仲裁を願ってはどうでしょうか」
「なんだと?」
「初代イスラとイスラの戦いは止められないとしても、問題はそれだけではありません。デルバート様も関わってきたら厄介なことになります」
私の提案にハウストが少し驚いた顔になりました。
私自身も躊躇いがないわけではありませんが、このまま何もしないままでいたくありません。
「私たちは勇者と魔王の戦争に介入してしまいましたが、それは幻想王と精霊王が関与する戦いではありません。ですから仲裁をお願いできるんじゃないかと思いまして」
「気持ちは分かるが、仲裁はオルクヘルムとリースベットにとって危うい賭けだ。易々と引き受けるとは思えないが」
「そうかもしれませんが、困ったことがあれば頼るように言ってくれたんです。だから……」
可能性は低いかもしれません、でも僅かでも可能性があるなら諦めたくないのです。
お願いする私をハウストはじっと見ていましたが、少ししてため息をつきました。
「……仕方ない。手紙を書くなら俺の鳥を貸してやる」
「ハウスト、ありがとうございます!」
ハウストが使役する魔鳥なら必ず幻想王と精霊王に手紙を届けてくれるでしょう。
ほっと安堵すると、ハウストは「仕方ない奴だな……」と私の頭にぽんっと手を置きました。
その日の夜。
私はさっそく幻想王オルクヘルムと精霊王リースベットに手紙を書いていました。
もちろん内容は仲裁を願うもの。うまくいくかは分かりませんが、少しでも望めるなら諦めたくありません。
「スヤスヤ……んー、……ふへへ」
側で眠っているゼロスが気持ち良さそうに笑って寝返りを打ちました。
無邪気で可愛いですね。でも隣で眠っていたクロードにぶつかって、クロードが小さな眉間に皺を刻みます。
「あう~……、むにゃむにゃ……、……スヤスヤ~……」
お気に入りのハンカチをしゃぶっていると眉間の皺が浅くなっていきました。どうやらイラッとしてもハンカチが静めてくれたようです。
「体が冷えてしまいますよ?」
捲れていた上掛け布団を直してあげました。
二人の寝具を直し、ついでに丸くて柔らかな頬をちょんっとつついてみる。すると二人して鼻をむずむずさせて可愛いですね。
くっついて眠っている次男と三男に口元が綻びました。安心して眠っている幼い寝顔はどれだけ見ていても飽きません。
できれば長男の寝顔も見たいけれど、あの子はもう幼い年頃ではありません。イスラは鍛錬を毎日の習慣にしているので今は森に行っていました。
そしてハウストはというと洞窟の周辺を見回りしてくれています。洞窟の安全確保はハウストとイスラが請け負ってくれているのです。
二人には大変な役目を任せてばかりなので、せめて私のできることをしたい。今はお手紙を書くこと。少しして手紙を書き終わると、願いが届くことを祈ってしっかり封をしました。
あとは届けるだけですね、私は洞窟の外に向かって呼びかけます。
「どうぞ、こちらへ来てください」
ピイイィィィィ!!
外から甲高い鳴き声がしたかと思うと、洞窟の中に一羽の鷹が飛んできました。ハウストが使役する魔鳥です。
鷹は大きな翼を広げて飛行し、私の頭上を旋回して着地しました。
「待っていてくれてありがとうございます。これをお願いします」
鷹の足に手紙を結びつけます。
次に私の腕に布を巻きつけると、鷹が飛び上がって私の腕に乗りました。
「ふふふ、お利口ですね」
鷹の頭をくすぐるように撫でてあげました。
ハウストが使役する鷹はお利口ですね。以前アベルがこの鷹が城の窓を突き破って部屋を荒らしたとか苦情を入れてきましたが、……そんなはずありませんよね。そうですよね、だってこんなにお利口さん。
じっと見つめると「ピッ?」と可愛く返事をしてくれます。ほら、こんなに可愛いんですから。元の時代に帰ったらアベルにちゃんと言わなければ。
私は腕に鷹を乗せたまま洞窟の外に出ました。
夜空を見上げると幾千万の星が瞬いている。この星空の光景は十万年後と変わりませんね。
「この手紙を幻想王オルクヘルム様と精霊王リースベット様のところに届けてください。ここは十万年後の世界とは違いますが、できますか?」
「ピピッ!」
「良いお返事です。ではお願いします」
「ピイイィィッ!」
私の腕から鷹が翼を広げて飛び立ちます。
私の頭上で鷹は二回旋回し、夜空に向かって飛んでいきました。
それを見送っていると、少しして闇夜の森から人影が歩いてきました。ハウストです。
見回りから帰ってきたハウストをお辞儀して出迎えます。
ともだちにシェアしよう!