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第五章・初代四界の王VS当代四界の王(※家族五人)10

「おかえりなさい、お疲れ様でした」 「変わりはなかったか?」 「はい、ゼロスとクロードはぐっすり眠っています。落ち着いて眠れるようになったみたいで、寝ながら笑ってました」 「……不気味だな」 「無邪気だと言ってください。眠っている時も笑っているなんて可愛いじゃないですか」 「それなら俺が眠りながら笑っていたらどう思う」 「…………うーん、恐いですね」 「ほらみろ」  ハウストはそう答えながらも、少し面白くなさそうな顔をしています。自分で質問しておいて予想通りの答えが返ったのに、それはそれで面白くなかったようです。 「傷ついた。慰めてくれ」 「自分から聞いてきたのに……」 「知らん」  ハウストは素っ気なく答えつつ私の肩を抱き寄せます。  顔をあげるとハウストが覆い被さってきて唇に口付けられました。呼吸が届く距離で見つめ合って、何度も啄むような口付けを繰り返されます。  私もハウストの頬に手を添えて口付けを返すと、彼が嬉しそうに目を細めました。 「慰められました?」 「まだ足りない」 「ふふふ、良かった。もう足りてしまったらどうしようかと思いました」  そう言って私はハウストの広い背中に両腕を回します。  するとハウストの力強い両腕に抱き締められました。  満天の星空の下でハウストと抱きあえるなんて幸せなことです。この時代にきてゼロスとクロードが見つかり、ようやく落ち着いた心地になりました。 「さっきオルクヘルム様とリースベット様にお手紙を出しました。お返事がくるといいのですが」 「どうだろうな、そう簡単に思い通りになるとは思わんが……」 「うっ……」  あっさり不安を突かれました。  ムッとしてハウストを見つめます。 「……意地悪ですね」 「お前に嘘はつけない」  ハウストはそう言いながらも、慰めるように私の目元に口付けてくれました。  意地悪だけど優しいですね、甘えてしまいたくなるじゃないですか。  私はハウストの鍛えられた胸板にすりすりと擦り寄ります。 「難しいことは私も承知しています。でもこれはイスラと初代イスラの一騎打ちで終わる問題ではありません。どのみち仲裁をしてもらわなければ」 「対デルバートの布石か」 「布石っ。も、もっと別の言い方をしてください」  ちょっと人聞きが悪いですよ。しかも相手は初代四界の王なんですから。  慌てた私にハウストがニヤリと笑って提案してきます。 「俺がデルバートを始末してやろうか。そうすれば解決だ」 「な、なに言ってるんですか。あなたまでイスラみたいなことをっ……」  ハウストもイスラも戦えばなんでも解決すると思ってるんでしょうか。  簡単に言うけれど、絶対簡単なことではありませんよね。  じーっと見つめると、ハウストが降参したように苦笑しました。 「そんな目で見るなよ。大丈夫だ、それは最後の手段にしておく」 「……それでも手段の一つにはしてるんですね」  言いたいことはたくさんありますが、まあいいでしょう。今はそうならないことを願います。 「そういえば、さっき森でイスラに会ったぞ。明日、鍛錬に付き合うことになった」 「え、ハウストとイスラが? それなら私もぜひ見学したいです!」  明日は洞窟周辺を散策予定でしたが、それにハウストとイスラの見学も追加です。  なんだか楽しみになってきましたよ。 「ブレイラ、ハウスト、こんな所でなにしてるんだ」  不意に声をかけられました。イスラが鍛錬から帰ってきたのです。  しかも呆れた顔で私たちを見ていてハッとしてしまう。 「す、すみません、こんな所でっ……」  慌ててハウストから離れました。  そうでした、ここは洞窟の前。こんな所でこんなことをしていたらイスラが困ってしまいますよね。ハウストと二人きりだと思ったのでつい……。 「大丈夫だ、気にしてない。それよりこんな遅い時間まで起きてたのか」 「こんな遅い時間って……。こら、私はあなたの親ですよ。あなたこそ帰ってくるのが遅いんじゃないですか?」  生意気すぎます。私はあなたの親だというのに。  言い返した私をイスラが笑って宥めます。 「アハハッ、悪かった。今日も一日忙しくしてたから」 「平気ですよ。あなたこそ鍛錬お疲れ様でした。ケガとかしていませんか?」 「大丈夫だ、問題ない」 「ハウストから聞きました。明日はハウストと鍛錬するそうですね、私にも見学させてください」 「いいけど、きっとつまらないぞ?」 「つまらなくありませんよ。私、あなた達の手合わせなら見学したことありますが、鍛錬は初めてだったと思います」 「そうだったか?」 「そうでしたよ」  思えばイスラがまだゼロスくらいの頃、朝から晩までハウストに鍛えられていました。そう、まだ人間界の山暮らしをしていた頃です。その時のイスラは先代魔王から身を守るために急いで強くなる必要があったのです。その為、私は二人が鍛錬している間も薬を作って食費や生活費を工面していました。だからハウストとイスラの鍛錬を知らないのです。 「明日が楽しみです」 「つまらなくなっても知らないからな」 「そんなことありませんよ」  そう言って私は笑いました。  こうして三人で話していると、洞窟から眠っていたはずのゼロスが出てきました。とても寝ぼけた足取りです。 「……うーん、おしっこ~……」 「ああ、それで起きてきたんですね。おねしょせずに起きられるなんてえらいですよ?」 「まあね……。うう~……」  返事をしながらも眠そうに目を擦っています。まだ半分眠っているようでした。  お漏らしする前に連れていかなければ。 「では私はゼロスを連れていきますね」 「待て、俺が連れていく」 「ありがとうございます。よろしくお願いします」  私がゼロスを連れていく前にハウストが替わってくれました。  寝ぼけてふらふらのゼロスがハウストに誘導されます。 「こっちだ。ふらふらするな」 「……ブレイラじゃないの?」 「ブレイラじゃなくて俺だ」 「う~ん、もれる~……」 「それを早く言え!」  ハウストはぎょっとしてゼロスを抱え、急いで森の茂みに走っていきます。 「もれちゃう~!」 「まだだっ。まだ耐えろ!」 「むり~!」 「冥王なら諦めるな!」 「ぼく、まだみっつだし!」  ……森の奥から騒がしい声が聞こえて、草木がガサガサ揺れています。ハウストとゼロスは間に合ったでしょうか。  心配で森の奥を見守っていると、ふと視線に気付く。一緒にいたイスラが困惑したように私を見ていました。

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