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第五章・初代四界の王VS当代四界の王(※家族五人)14

「わああっ、とんでく~~!」  ゼロスが驚いた声をあげました。  ハウストの足元ではゼロスがしゃがんで頭を抱えています。とっさに頭を守る体勢をとったのですね、えらいですよ。しかも衝撃波のど真ん中にいたのに無傷、三歳でもやはり冥王なのですね。 「オルクヘルム、貴様がこの時代の幻想王か」 「そういうお前は十万年後の魔王みたいだな」  ハウストとオルクヘルムが大剣を交えたまま言葉を交わしました。  近距離で睨みあうも、オルクヘルムがふっと闘気を収めます。 「悪かったな、突然。興奮してるんだ」  そう言ったオルクヘルムはニヤリと笑って大剣を収めました。でもふと私を見るとパッと表情を輝かせます。 「そこにいたかブレイラ! この手紙の差出人はお前だな! そうだな!?」 「えっ、ええっ!?」  オルクヘルムが勢いよく迫ってきて引いてしまいました。巨漢なオルクヘルムは迫力があるのです。  イスラが私の前に立って庇ってくれましたが、オルクヘルムが握りしめている便箋は紛れもなく私が出したもの。 「その手紙、読んでくれたんですね! イスラ、ありがとうございます。大丈夫ですよ」  私はイスラの後ろから出ました。  昨夜手紙を出したばかりですがオルクヘルムはわざわざ返事をしに来てくれたのです。  しかもとても上機嫌で好意的な様子。これはもしかしなくても私の願いを受け入れてくれるということでしょうか。十万年後に来てから初代魔王や初代勇者にはいろんな意味で驚かされましたが、初代幻想王のオルクヘルムは良い人なのかもしれません。 「手紙を読んでいただけて嬉しいです! ありがとうございます! 突然のことで驚かせてしまったと思いますが、こうして会いに来ていただけるなんて光栄です!」 「とんでもない、光栄なのは俺の方だ!」 「幻想王様にそう言っていただけるなんてっ。突然のお手紙で失礼もあったかと思いますが、お返事はもちろん」 「ああ、もちろん俺も参戦だ! 十万年後の王と戦えるなんて最高じゃねぇか!」 「はいっ、さんせ……っ。さ、参戦!!?!」  さ、さささ参戦!? 今、参戦って言いましたか!?  予想外の事態に混乱してしまう。  でもオルクヘルムは手紙とともに私の手をガシリッと握りしめ、興奮とともに感動を伝えてきます。 「俺はなんて幸運な男なんだ! 初めて会った時は、弱ぇくせに口だけが達者な生意気な美人だと思ってたが! 喜べ、訂正してやる!」 「く、口だけが達者っ……!」  訂正です! 私こそ訂正です! ちっとも良い人などではありません!  わなわな震える私をイスラがハラハラした面持ちで見ています。 「ブレイラ、落ち着け……」 「だ、大丈夫、私は落ち着いてますよっ。ただ驚いただけです! 手を離してください!」  そう言ってオルクヘルムの手を引き剥がし、キッと睨みつけてやります。  無遠慮に手を握られて痛かったですよっ。見た目通り馬鹿力ですね! 「まさか幻想王様とあろう方が手紙も読まずにお返事されるとはっ。見かけ通り性急な性分なのでしょうか」 「嫌味な奴だな、読んだに決まってるだろ」 「嫌味の一つや二つ言いたくなります。読んだのにそのお返事なら、尚更ですよ」  呆れてしまいました。  私はお手紙で初代四界の王と私たちとの仲裁役をお願いしたのです。それがこの時代と十万年後の双方のためであると判断したから。それなのにオルクヘルムは参戦するというのです。なにを考えればその答えに行きつくのか……。  私はじとりっとオルクヘルムを睨みます。 「読めていたのにどうして参戦ということになるんですかっ。私は仲裁を願ったんです! それなのに参戦とはどういう意味です!」 「仲裁!? 誰がそんな勿体ないことするかっての! あのクソガキ勇者にばっかいい目見させてたまるかっ」  オルクヘルムはそう言うと、イスラを見て「勇者っつってもお前のことじゃねぇぞ。お前よりクソガキの方の勇者だ」と言いました。  私は出会ったばかりの初代勇者イスラを思い出します。たしかにあの方はクソガキですね。  妙な納得を覚えましたが、こうしている間にもオルクヘルムは勝手に決めてしまいます。 「それじゃあ俺が一戦交えるのは……あいつか」  そう言ってオルクヘルムはハウストを見据えました。  好戦的な笑みを浮かべて闘気を漲らせる。それは早く戦わせろと言わんばかり。 「十万年後の勇者も面白そうだが、あのクソガキは拗ねると面倒だからな。クソガキだから」  そう言いながらオルクヘルムはイスラとハウストを順に見て、またハウストに視線を戻しました。  オルクヘルムは大剣の切っ先をハウストに向けて挑発します。 「せっかくなら俺と同じ十万年後の幻想王と一戦交えたかったが、ここにそれらしい奴はいないようだ。ならばこの幻想界の王・幻想王オルクヘルム、十万年後の魔王でも不足なし!」  それにハウストもニヤリと笑って答えようとしましたが、その前に。 「――――あの、げんそうかいじゃなくて、めいかいなんだけど」  今まで話しを聞いていたゼロスが少しムッとした様子で口を挟みました。  見るとゼロスがハウストの後ろから警戒心丸出しでオルクヘルムを見ています。  ……どうしましょう、ややこしくなる予感がします。だって冥界の王・冥王ゼロスの主張は続いてしまう。

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