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第五章・初代四界の王VS当代四界の王(※家族五人)15

「げんそうおうじゃなくて、めいおうなんだけど」  ゼロスはそう言うと、くいくいっとハウストの服を引っ張る。そしてオルクヘルムをちらちら見ながらハウストにこそこそ話しかけます。 「ねえねえ、ちちうえ。あいつ、めいかいしらないみたい。おしえてあげたほうがいいかなあ」  しかも善意のようでした。  主張とともに善意で教えてあげるようです。 「あのね、げんそうかいじゃなくて、めいかいなの。まかいと、にんげんかいと、せいれいかいと、めいかい。わかった? め・い・か・い。……もう、このおじさんまでめいかいしらないなんて、へんなの」  ゼロスはそう教えながらも不思議そうに首を傾げました。  冥界はゼロスの世界。それなのにこの時代の人々は冥界を知らないので面白くなかったのかもしれませんね。 「ああ? なんだこのチビガキは」  オルクヘルムがじろりとゼロスを見下ろしました。  見上げるような巨漢から鋭い眼光で見下ろされ、ゼロスはごくりっと息を飲む。幼いとはいえゼロスは冥王、オルクヘルムの強さに気付いているはず。  でもそれでもゼロスは譲りません。 「わっ、こわいおかお! でもげんそうかいじゃなくて、めいかいだから!」  ゼロスはハウストの後ろから強気に言い返しました。  そんなゼロスにオルクヘルムはイラッとしたようで、私に聞いてきます。 「おいブレイラ、なんだこのチビガキは!」 「チビガキではありません、ゼロスです! 十万年後の王の一人です!」 「嘘だろ、こんなチビガキが……」  オルクヘルムが驚いた顔でゼロスを見ました。  あんぐりとした様子でしたが、ゼロスはハウストの隣に出てくるとビシッと背筋を伸ばします。 「チビガキじゃなくて、め・い・お・う! めいおうのゼロスです! よろしくおねがいします!」  立派に自己紹介ができました。  式典に出席した時にきちんと自己紹介と挨拶ができるように私が教えているのです。まさか初代幻想王にもお披露目することになるとは思いませんでしたが、上手にできましたね。  そんなゼロスの自己紹介にオルクヘルムは怪訝な顔をします。 「……冥界? なんだそれ。十万年後も魔界と人間界と精霊界と幻想界だろ」 「げんそうかい? なにそれ、しらない。まかいと、にんげんかいと、せいれいかいと、めいかいなのに」 「…………」 「…………」 「………………」 「………………」  幻想王と冥王のあいだに沈黙が落ちました。  ゼロスはきょとんとしてオルクヘルムを見上げていましたが、――――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!  不意に、オルクヘルムを中心に地面が小刻みに震えだしました。 「オルクヘルムさま……?」 「ブレイラ、俺から離れるな」 「は、はいっ……」  私はイスラの後ろでクロードを守るように抱きしめて、対峙するオルクヘルムとゼロスに息を飲みます。  オルクヘルムの眼光が鋭さを増して闘気が溢れだす。恐怖を覚えるほどの威圧感に、私など気を抜けば膝から崩れ落ちてしまいそう。  本当ならゼロスもハウストの後ろに隠れてしまいたいはずなのに、ゼロスはキッとした顔で対峙したままです。 「幻想界を知らねぇってのは、どういうことだ」 「めいかいをしらないの、ダメでしょ」  二人は言葉を交わすも埒があきません。  ゼロスの側にはハウストがいてくれますが、もしオルクヘルムの凄まじい闘気がゼロスに向かってしまったらっ。考えるだけで背筋がゾッとして、これ以上は見ていられません。 「オルクヘルム様っ、十万年後の世界は」 「黙れ!!!!」 「っ……」  怒鳴られてビクリッと肩が跳ねました。  でも私の言葉を遮ったオルクヘルムの様子になにも言えなくなる。だって、今の彼からは怒りと恐れを感じたのです。そう、私が続けようとした答えを恐れているようでした。  オルクヘルムはゼロスを見据え、淡々と言葉を紡ぐ。 「十万年後がどうなってるか知らねぇが、一つだけ分かったことがある」  そこで言葉を切ると、ビュッ! 大剣を一閃して切っ先をゼロスに向けました。そして。 「今ここで冥王を殺せば十万年後の冥界とやらは消え失せる。十万年後に存在するのは冥界じゃねぇ、幻想界だ!」  そう言い放ったのと同時に巨漢オルクヘルムから凄まじい闘気と殺気が放たれました。  押しつぶされそうな威圧感。  私はイスラの後ろからゼロスを見つめます。 「ゼロスっ……」  震えそうになる指先を握りしめました。  圧倒的な力を前にしたゼロスは驚愕に目を見開いて硬直しています。このような凄まじい闘気と殺気を向けられるのはゼロスにとって初めてのこと。今のゼロスはあまりの恐怖に指一本動かすことができなくなっているようでした。  でもふと、硬直するゼロスにハウストが話しかけます。 「どうする、ゼロス」 「ち、ちちうえ……?」  ゼロスがハッとして顔をあげました。  ハウストはオルクヘルムを見たまま言葉を続けます。 「お前は俺の第二子、守ってくれと俺に縋るなら父親としてお前を守ってやる。だがお前は四界の王の一人、冥王だ。冥王として剣を握って冥界を守るか、幼い子どもとして庇護下にいるか、自分で選べ」  それはハウストが親として、四界の王として問うた言葉でした。  ゼロスは息を飲んでハウストを見つめていましたが、少しして決意したようにオルクヘルムに向き直ります。 「ぼくのめいかいは、きえない! ぼくがまもってあげるの!」  ゼロスが強い面差しできっぱり言い切りました。  それはオルクヘルムの勝負を受けたということ。  そんなゼロスにオルクヘルムはニヤリと口角を吊り上げました。

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