59 / 262

第五章・初代四界の王VS当代四界の王(※家族五人)16

「いい度胸だ、お前が冥界を守るために俺に挑むなら、俺は幻想界を守るために本気でお前を潰す。相手がガキでも容赦しねぇぞ」 「いいよ! ぼくも、ほんきでやっつけちゃうから!」  ゼロスも負けずに言い返しました。  二人は睨みあいましたが、少ししてオルクヘルムがふっと闘気を消し去りました。 「よし決まりだな。幻想界か冥界か、どちらの世界が生き残るか勝負だ」 「いいよ! しょうぶしよ!」 「ガハハハッ! 威勢いいじゃねぇか!」  オルクヘルムが豪快に笑いました。  こうして幻想王と冥王の一騎打ちが決まってしまう。でも一騎打ちといっても、誰の目にも勝敗は明らかなものでした。  だって相手は初代幻想王なのです。冥王とはいえまだ三歳のゼロスが相手になるわけがありません。 「このままじゃゼロスがっ……」  嫌な想像をして全身の血の気が引いていく。  ゼロスは冥王でもまだ三歳なのです。もしなにかあったらっ……!  私は堪らずに駆け寄ろうとしましたが、その前にイスラに腕を掴まれます。 「ブレイラ、待て」 「このままではゼロスが大変なことになってしまいますっ」 「ああ、俺もゼロスが幻想王と戦ってただで済むとは思わない。だが、それでもゼロスは冥王だ」 「冥王……」 「冥王が冥界のために戦うのは当然のことだ。ゼロスは冥王の矜持をもって戦うことを決意した」 「…………邪魔してやるなと、そういうことですか?」 「ああ」  イスラが迷わずに頷きました。  私は唇を噛んで俯きます。  有無を言わせぬそれは私の反論を封じるものでした。でも、イスラだけでなくゼロスまで初代四界の王と戦うことになるなんて……。  黙り込んだ私にイスラが少し弱った声をあげます。 「ご、ごめんっ。ブレイラを傷つけたかったわけじゃないんだっ……」 「……別に傷ついてません」 「うそだっ。ちょっと落ち込んだ顔しただろ」 「…………」 「ほらみろ。ブレイラ、頼むから」 「分かっていますよ。落ち込んだ振りをしてみただけです」  遮って言い返してやりました。  そんな私にイスラは「振りって……」と困惑する。だからからかうような口調で注意してあげます。 「あなたこそ歴代最強の勇者を目指す身でありながら、私の表情一つに気持ちを揺さぶられるとはどういうことです。そんなことでは初代勇者は倒せませんよ」 「ブレイラ……」  イスラが少し驚いたように目を瞬きます。  その顔がおかしくて小さく笑いました。 「ふふふ、ごめんなさい。私が心配をかけてしまったんですよね。でも大丈夫です。あなたとゼロスを応援しています」  私は笑顔でそう言いました。  イスラはなにか言いたげに口を開きかけましたが、その前にゼロスが私のところへ駆けてくる。私の足にぎゅっと抱きついて誇らしげに教えてくれます。 「ブレイラ~! ぼく、あいつをえいってするの! やっつけちゃうの!」 「冥界のために戦うのですね。がんばってください、冥王さま」 「うん、みててね。えいえいってしちゃうから!」  私にそう宣言すると、抱っこしているクロードにも胸を張って教えます。 「クロードもみてなさい! ぼくつよいから!」 「あぶっ、あーうー、ばぶぶっ」  クロードもおしゃべりして答えています。  無邪気な幼い二人の様子に目を細めました。  イスラが複雑そうな顔で私を見ているけれど、ごめんなさい、今は気付かない振りをさせてくださいね。  内心の動揺はあるけれど、今はそれを表情に出さないようにします。それは王であるイスラとゼロスを困らせ、足枷になるものだと分かるから。 「ブレイラ、きょうのよるはおにくいっぱいたべたい! いっぱいたべてつよくなるの! おいしいのいっぱいつくってね!」 「いいですよ、今夜はゼロスの好きな味付けにしてあげます。ではハウストに狩りをお願いしましょう。ハウスト、お願いできますか?」  そう言ってハウストを振り向くと、彼は苦笑しながら頷いてくれました。 「分かった」 「ありがとうございます。よろしくお願いします」 「やった~! ぼくもおてつだいする!」  嬉しそうなゼロスの頭をいい子いい子と撫でてあげました。  今夜はおいしい肉料理をたくさん作ってあげましょう。強くなろうとするイスラやゼロスに私ができることの一つです。  でもその時。 「おっ、十万年後の肉料理か! そりゃあ楽しみだ!!」 「はいっ!?」  オルクヘルムを振り返りました。  私だけではありません、ハウストとイスラもぎょっとして振り返っています。  しかしオルクヘルムはガハハッと陽気に笑って注文します。 「おいブレイラ、俺のはしっかり焼いてくれ。レアな部分は残すなよ?」 「ち、ちょっと待ってください! なに普通に一緒に食事しようとしてるんですかっ。用事が終わったら帰ってください!」 「ぼくたちのおうちは、ぼくたちの! おじさんはかえらなきゃダメ!」  ゼロスも私と一緒に強気に言い返しました。  しかしそんな私とゼロスにオルクヘルムは大袈裟に嘆きます。 「なんてひどい奴らなんだっ。今から帰れっていうのか? 日が暮れたら危ないだろ。夜の森は暗いんだ、危険なんだ。当たり前だろっ」 「なにが危険ですか!」  どうしましょう、眩暈がしそうです。  どこの時代に夜の森を恐れる幻想王がいるのか、言い返したいことがたくさんあります。むしろどう危険なのか説明してほしいくらい。 「幻想王様とあろう方が子どもみたいなワガママ言わないでください。そもそもそんな簡単にいろいろ決めていいんですか? お仲間の方々もいるんですよね、帰ったほうがいいんじゃないですか?」 「大丈夫だ、俺の部下は優秀なんだ。それよりいいのか? お前の息子は許してくれそうだぜ? ほら」 「え?」  指摘されるままに振り返って……。 「そ、そうだっ。よるのもりは、あぶないんだったっ……!」  頭を抱えて苦悩するゼロス。  見ると抱っこしているクロードまで「あうぅっ……」と苦悩しています。  そう、幼いゼロスやクロードに日頃から『夜の森は危ないんですよ?』と言い聞かせているのは私……。  オルクヘルムはニヤニヤしていました。

ともだちにシェアしよう!