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第五章・初代四界の王VS当代四界の王(※家族五人)18
「ハウスト、見てください。小さな花がたくさん咲いています。綺麗ですね」
「ああ、綺麗だな。見ろ、あそこに変わった色の鳥が飛んでるぞ」
「ほんとう、南国の鳥に雰囲気が似ています。ゼロスが見たらはしゃぎそうです」
私たちは十万年前の美しい景色を眺めながら歩きます。
少しして村が見えてきました。以前ゼロスとクロードが身を寄せていた小さな村です。食材を調達する前にフレーベ夫妻にお礼をしに行きましょう。
村に入ると村人たちの注目が集まりました。小さな村なので村の外から来た私たちは目立ってしまうのです。
でもそれだけではありません。
「キャー、ステキ!」
「ああ、こっち見たわっ。かっこいい~!」
「どうしようっ、ドキドキしてきた!」
若い女性たちの歓声があがりました。
女性たちがうっとりとハウストを見ていたのです。
以前ここに来た時は夜だったので、村の女性たちがハウストを目にしたのは初めてでした。
隣のハウストを見ると、彼が特に気にしている様子はありません。慣れた様子で受け流しています。ハウストの魅力は時代を超えるのですね、なんだか誇らしい。
でも彼が真っ先に気付く視線は私のものだけ。
「どうした、ブレイラ?」
「いいえ、なにも」
そう言って笑いかけました。
村の女性たちには申し訳ないですが、ハウストが愛しているのは私です。
しかし女性たちがハウストを見て騒いでしまう気持ちは分かりますよ。彼の精悍で端麗な容貌はどこにいても際立つものですから。
私は遠巻きに見つめる女性たちに同感と同情を覚えましたが。
「一緒にいる方は誰かしら。もしかして恋人とか?」
「そんなっ。絶対いやッ。そうだったとしても信じないからっ!」
「絶対違うわよ、そんなわけないじゃない!」
聞こえてきた女性たちの声に私の目が据わっていく。
撤回です。同情など不要、見せるのも惜しいですっ。
遠巻きながらも自己主張するような女性たちの視線。この熱烈な視線には私の視線で返してやります。
「あっ、隣の人がこっち見たわ!」
「なによ、あのムカつく態度っ。腕なんか組んじゃって」
「絶対恋人とは違うわよ!」
信じようが信じまいが私とハウストは結婚しているのです。さっきだって何度も口付けを交わしたり、抱きしめ合ったりして、今だってデートですから。
「ハウスト、デート楽しいですね!」
「なんだ急に……」
「今日はデート日和の良い天気です! 仲良しな私たちを祝福しているような天気ですね! 私たち毎日が結婚式のように愛しあってますから!!」
「意味が、分からん……」
ハウストは怪訝な顔をしますが、今は構っている暇はありません。
女性たちに見せつけるようにハウストにくっついて、しかも「結婚二年目!」「今日は恋人同士のデート気分!」「私たち愛しあってますから!」の部分を強調しながらわざと惚気てやりました。
視界の端では女性たちが悔しそうにしています。フフン、気分がいいですね。
「……お前、そういうとこあるよな」
ハウストが少し呆れた口調で言いました。
いいのです。こればかりは直しません、だって私はハウストを愛しています。だから愛され続ける努力を惜しみません。私から奪おうとするなら受けて立ちます。私はハウストを独占していたいのです。
「なんですか、なにか言いたいことでも?」
「いいや、嫌いじゃない。むしろ気分がいい」
「……私はあんまり面白くありませんけど」
「それは悪かった。許せよ」
ハウストはそう言うと私の目元に口付けてくれました。
誤魔化しましたね。でもいいですよ、誤魔化されてあげます。嬉しい気持ちは隠せません。
私は小さく笑い返し、ハウストと一緒に村の通りを歩きました。
「ハウスト、先にフレーベさんのお宅に行きましょう。ご挨拶しておきたいです」
「そうだな。ゼロスとクロードはいろいろ思うところがあるだろうが、二人が世話になったことには変わりない」
「はい。ゼロスとクロードを心配してくれていましたので、無事に会えたことを知らせたいです」
村の奥にある家まで行くと扉をノックしました。
少し待つと中からフレーベ夫人が出てきてくれます。私を見て驚く夫人に深々とお辞儀しました。
「こんにちは、先日はありがとうございました。ゼロスとクロードに無事に会えましたので、改めてご挨拶に伺いました」
「ブレイラさんっ……。……いえ、私どもは何もしていません。それどころかゼロスは村を守ってくれました。村の者一同、感謝しています。ゼロスとクロードにも伝えてください」
フレーベ夫人が頭を下げて礼を言ってくれました。
ゼロスとクロードにとって村での生活は困難も多かったはずですが、いずれ受け止められるようになるでしょう。その時に、改めて自分で考えてほしいと願います。
「ではまたゼロスを連れてきます。今日は食材を調達したくて村に来ました」
「食材でしたらこちらで準備します。レオノーラさんから話しを聞いていますので、必要なものを教えていただければ用意しておきます」
「それはありがたいです。ぜひよろしくお願いします」
私は必要なものを紙に書いてフレーベ夫人に渡しました。
でもその時、老人と女性が家の前を騒がしく走っていきます。
「早く来てくれ、昨夜から熱が出てるんだっ」
「しかし今お医者様は隣の村に行っていますから……」
「診るだけでもいいから、頼むっ! 息子を助けてくれ!」
バタバタと立ち去って行った二人の村人。女性は白衣を着ているので医療者のようでした。
ひどく焦った様子の二人が気になって、フレーベ夫人に聞いてみます。
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