「どうしました、あの方々はなにかあったんですか？」 「……実は、この辺りで妙な怪物が出没するようになったんです。以前ゼロスが倒してくれた怪物と同じだと思うんですが、近くの山や森で目撃されることが増えてきました」 「そんなことがっ……」 「ここの村人も何人か襲われまして、なかには殺された者もいます」 「ではさっきの老人の息子というのも怪物に襲われたんですか？」 「はい。仲間と森に狩りに出て、そこで襲われたようです。命からがら逃げてきましたが、ひどい怪我に今も苦しんでいるようです」 「そうでしたか。良かったら、私をその方のところへ案内していただけませんか？」 「ブレイラさんを？」 「はい、以前は薬師をしていましたので、なにかお役に立てることがあるかもしれません」 「それならぜひお願いします！　どうぞこちらへ、案内します！」 　フレーベ夫人がさっそく案内してくれます。 　患者の状態を見て薬を作ることしかできませんが、村には医者が不在のようなので少しでも助けることができるなら嬉しいです。 　私とハウストは近くの患者の家に案内され、奥にある寝室へ通されました。 　ベッドには腕に包帯を巻かれた若い男性が横になっていました。ベッドサイドで白衣の女性と父親の老人が心配そうに見守っています。 「失礼します。もし良かったら私にも診させていただけませんか？　薬師をしていたのでお役に立てるかもしれません」 「よろしくお願いします！　昨夜から急に高熱がでてきたんです！」 「分かりました」 　私は横たわる若い男の状態を診察します。 　腕の包帯は怪物に襲われた時のものでしょう。怪我を診て、他にも顔色、呼吸、体温、脈拍など男の状態を確認しました。 「どうやら怪我が原因で全身に毒が回っています。致命傷になるほどの量ではありませんが、このままでは体力がもちません。村に解毒剤や化膿止めはありませんか？」 「……今は医師が不在にしておりますので詳しい者はいないんです」 「そうでしたか。医師が村に来るのはいつ頃になりますか？」 「明日の昼頃になるかと……」 「では山の麓に咲いていた黄色い花と、川辺に群生している紫色の花を摘んできてください。応急処置程度のことしかできませんが解毒剤と熱冷ましの薬を作ります。それがあれば少しは楽になるでしょう」 「分かりました、すぐに摘んできます！」 「俺も手伝うぞ！」 　村人たちが急いで花を摘みに行ってくれました。 　間もなくして戻ってきてくれて、私はさっそく薬を作り始めます。 　まず黄色い花は解毒剤に、紫色の花は熱冷ましに。他にも幾つかの薬草を混ぜ合わせ、煎じて薬を作りました。 「どうぞ、この解毒剤と熱冷ましの薬を飲んでください。ゆっくり飲んでくださいね」 　声を掛けながら男に薬を飲ませてあげます。 　しばらくすると男の早かった呼吸が安定して静かに眠っていきました。 　男の状態が落ち着き、見守っていた父親も医療者の女性も安堵の顔になります。 「本当にありがとうございます！　これで息子も助かります！」 「ありがとうございます！　なんてお礼を言えばいいかっ……」 「いいえ、私は薬を作っただけですよ。あとは彼自身の体力次第です。二日分の薬を作りましたから、医者が来るまで五時間おきに飲ませてあげてください。これが解毒剤でこちらが熱冷ましです」 　私は薬の説明をし、あとの見守りを任せて家を後にしました。 　家の外に出るとフレーベ夫人が待っています。 「薬をありがとうございました。村の者たちも心配していたので喜んでいます。これ頼まれていた食材です」 「ありがとうございます。用意していただいて私こそ助かりました」 　私は籠を受け取って中を確認します。 　そこにはパンやミルクやチーズなど山では手に入らない食材が入っていましたが、頼んでいたより多いような……。 「あの、頼んでいた物より少し多いようですが」 「これは村からのお礼です。受け取ってください」 「それはどうもありがとうございます！　嬉しいです！」 　私は深々と頭を下げて感謝を伝えました。 　こうして私とハウストは無事に食材を調達すると村を後にします。 　川沿いの小道を歩きながらハウストが持ってくれている籠を覗き込む。まさかこんなにたくさん食材をいただけるとは思わなかったので嬉しいです。 　思わず笑みが浮かんできて、そんな私にハウストが気付きます。 「機嫌がいいな」 「物々交換は久しぶりだったので懐かしい気持ちになりました」 「よくしていたのか？」 「はい、薬師をしていた頃に食料をいただくこともありました。これでも私の薬は評判良かったんですよ」 　これは自慢です。 　私の薬はよく効くと評判で、貧しい方々とは物々交換をしていました。 　なんだか懐かしい気持ちになっていましたが、ハウストが複雑な顔になっています。 「どうしました？」 「いや、感心したんだ。お前は凄いなと思ってな……」 「感心している顔には見えませんが」 「……そう見えるか？」 　ハウストが片手で口を覆い、なにやら悩む顔をしました。 　ますます分かりません。 「なにか思うところがありましたか？　私はなにかしてしまったでしょうか……」 「そうじゃない、お前はなにも悪くない。むしろ村でのお前を見て、これが俺の妃だと自慢に思ったくらいだ」 「嬉しいです、あなたに自慢に思っていただけるなんて。でも、それならどうしてそんな顔してるんですか？」 「……まだ聞くのか」 「聞きます。気になるじゃないですか」 　繰り返し聞くとハウストは少し困った顔になってしまう。でも少しして観念したように口を開きます。 「…………お前がなんでも出来るということを思い出したんだ。それこそ一人で生きていくことも。それを誇らしく思うが、その、……同時になにもできなければいいのにとも思ってしまってな」 「ハウスト……」 　言葉の意味に息を飲みました。 　驚きを隠せない私にハウストは苦笑します。 「悪い、忘れてくれ。情けないことを言った」 　ハウストはそう言うと、話しはここまでだとばかりに終わらせてしまう。 　でもダメです、ここで終わらせるなんて勿体ない。 「待ってください、ハウスト。それってそういう意味ですよね！？」 「さあな」 「誤魔化しても無駄ですよ」 　私は隣を歩くハウストの前に回り込みました。 　通せんぼした私に彼が軽く目を細めます。