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第五章・初代四界の王VS当代四界の王(※家族五人)21
「いきなり何するんですかっ」
「お前が悪い。そんな顔で見るなよ、我慢できなくなるだろ」
「そんなつもりは……」
「大丈夫だ。ここには誰もこない」
きっぱり断言されました。
そんなふうに言われると、頑なだった私の心も揺れだしてしまう。だって私だってハウストと触れあいたいのです。
「…………。……ほ、ほんとうですか?」
おずおずと聞きました。
絆されだした私にハウストが真剣な顔で頷きます。
「本当だ。絶対誰もこない、俺には分かる」
ハウストは自信たっぷりに言うと、片手を胸に当てて誓うように言葉を紡ぎます。
「俺を信じろ」
低く囁かれた真摯な言葉。
ハウストの鳶色の瞳が真っすぐ私を見つめていて、ああいけません、そんな素敵なお顔で信じろなんて言われたら信じるしかないじゃないですか。
私はうっとりした気分でハウストを見つめます。
「あなたがそう言うなら、そうなのかもしれませんね」
「そうだ。俺を信じてくれ」
「はい、信じていますよ。どんな時も」
私たちは呼吸が届く距離で見つめ合いました。
ハウストに腰を抱かれて引き寄せられ、衣装越しに腰が密着します。
密着して擦り合わせるような動き、ゾクリッと甘い熱が背筋を走りました。
私は堪らずにハウストの首に両腕を回し、彼に持ち上げられた片足を彼の腰にゆっくり回します。いたずらに絡めるような動きはまるで誘惑のそれ。足で誘うなんて行儀が悪いですね。でも、いつになく大胆な私にハウストの鳶色の瞳に熱が帯びて……。
ああ、彼が欲情している。それは私も同じです。
「ふふふ、いたずらしてみました」
「いつからそんな悪い妃になったんだ」
「悪い妃はお嫌いですか?」
「愚問だな」
ハウストの低い声。
欲情を隠し切れないそれに私の熱も高まっていきます。
いけませんね。最初は外なので抵抗を覚えていましたが、今は外だから開放的な気分になっているようです。
大胆な気分のまま妖艶さを纏い、ハウストの顔をゆっくりと引き寄せましたが。
――――パキッ。
「え?」
小枝を踏む音に反射的に顔をあげて、……え?
一瞬、思考が停止しました。だって、だってそこにはレオノーラ!
ハウストの肩越しに目が合って、しかもレオノーラは申し訳なさそうな顔をしていて、わたしはっ、私はっ……!
「ど、どうしてレオノーラ様が!?!!」
「うわっ」
突然耳元で叫ばれたハウストも驚いた声をあげます。
彼は迷惑そうに私を見ましたが、そんな顔をしてる場合ではありません!
「ハウスト、離してくださいっ!」
私は慌ててハウストから離れて乱れたローブを直しました。
レオノーラもあわあわ焦りながら真っ赤な顔で弁解します。
「す、すみませんっ、まさかお二人がこんな所にいるとは思わなくてっ! 私は見回りをしていただけなんです! だ、大丈夫ですっ、いたずらとか見てませんから! ブレイラ様を悪い妃とか思ってませんからっ!」
「ああああ~っ! い、言わないでくださいっ! 最初から見てるじゃないですか!」
涙目で叫びました。
ああダメです、卒倒しそう。あんな浮かれた会話を聞かれていたなんてっ……!
「ハウスト、あなた、ここには誰もこないって言ったじゃないですかっ!」
「お前に気付かれる前に立ち去ると思ったんだ」
「気付いてたんですね!? それなのに、あんなこと言って私をその気にさせてっ……!」
八つ当たりは承知です。でもあんなに素敵な顔で断言されたら誰だって流されるというもの。
あまりの羞恥に先ほどまでとは違う意味で全身が熱いです。これは怒りという名の熱さですよ!
「俺が悪かった。せっかくお前がその気になりだしたのに、中断するのは惜しいと思ったんだ」
「だからって黙ってることないじゃないですか! あんなに誰もこないって言ったのにひどいですよ!」
「ああ、ひどいことをした。許してくれ、俺が悪かった」
ハウストがひたすら謝ってくれます。
全面降伏とばかりに怒りを受けとめられて、それはそれでなんだか面白くありません。だってなんだか彼の方が大人みたいじゃないですか。……いえいえ、違いますね、原因を考えるとやっぱりどう考えてもハウストが悪いです。またうっかり絆されるところでした。
でも今、こうした私たちのやり取りをレオノーラがハラハラした顔で見ていました。
「申し訳ありません、ブレイラ様。見回りをしていたら、こちらから気配がしたので来てみればお二人が……。すぐに立ち去ろうとしたんですがっ」
「や、やめてください、謝らないでくださいっ。私たちがいけなかったんです!」
「そんな、そんなことないですっ。お二人は結婚されているわけですから、これは当たり前のことです! 私が早く立ち去れば良かったんです!」
「いえいえ、そうじゃないですっ。私たちがご迷惑をっ……!」
動揺しまくる私とレオノーラ。
そんな私たちをハウストが少し呆れた顔で見ています。
「いつまで謝りあってるつもりだ。もういいだろ」
「ハウスト、なに開き直ってるんですかっ」
当事者のはずなのに開き直っているハウストにびっくりですよ。
すかさず言い返しましたが、それを見ていたレオノーラは少し落ち着きを取り戻したようでした。一つ咳払いすると改めて私を見ます。
「そ、そうですね。ブレイラ様、とりあえず、今回は……」
「す、すみません。そうですね、とりあえず今回は……」
レオノーラの顔はまだ赤いままですが、とりあえず今回のことは忘れて流してくれるようです。
私は気を取り直してレオノーラと向き合いました。
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