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第五章・初代四界の王VS当代四界の王(※家族五人)22
「レオノーラ様、どうしてこんな場所にお一人で?」
「見回りをしていました。最近、正体不明の怪物が出没すると聞いていたので」
「それは村人を襲ったという怪物ですか?」
「はい、この辺り一帯の森で目撃されているので見回りをしていました」
「それは心配ですね。ゼロスが村で保護されていた時にも見たことがない怪物に襲われたと聞いています」
「その怪物と同じ種族のものだと思いますが、神出鬼没で解明されている部分がほとんどありません。ですからお二人もくれぐれもお気を付けください」
レオノーラはそう言いつつも、ハウストを見て少し困った顔になりました。
ハウストが訝しむような顔でレオノーラを見ていたのです。
「…………私の顔に何かついていますか?」
「いや、そういうことじゃない。あの生意気な初代勇者はともかく、お前は大丈夫なのかと思ってな」
「どういう意味でしょうか」
「見回りだと言うが、そんな得体のしれない怪物と遭遇して大丈夫なのか?」
「っ、私の剣の腕を侮っておいでですか!?」
レオノーラがカッとして言い返しました。
腰の剣で今にも切りかかってきそうな迫力。しかしハウストは動じることなく宥めます。
「気を悪くしたならすまない。心配しただけだ」
「し、心配っ……?」
レオノーラが驚いたように目を丸めました。
みるみる頬が赤くなっていって、その様子にハウストは面白そうな顔になります。
「なんだ、俺が心配してはいけなかったか?」
「いえ、そういうことではっ……」
レオノーラの顔が隠し切れないほど赤くなっていきました。
慣れない言葉をかけられてどうしていいか分からない様子。そんなレオノーラの反応にハウストは目を細めてなんだか楽しそう。……でもねハウスト、私はちっとも楽しくありませんよ。ちっとも!
これ以上は見たくないので、ズイッ、二人の間に割り込んでやりました。
「ご親切に感謝します。教えていただいて助かりました」
「えっ、ああ感謝なんてとんでもないですっ。ブレイラ様、どうかお気をつけて」
「はい、ありがとうございます」
そう言って私は深々とお辞儀しました。
レオノーラも一礼し、「私はこれで失礼します」と立ち去ろうとします。
でもふとレオノーラが立ち止まって振り返りました。
「……あの、差し出がましいことかもしれませんが、……この川沿いの先に今は使われていない水車小屋があるので、よかったら……」
レオノーラが恥ずかしそうに教えてくれました。
その意味に私は一瞬で顔が熱くなりましたが、ハウストの方は嬉しそうな笑顔になります。
「それはいい情報だ。感謝する」
「いえ、それでは」
レオノーラはまた頭を下げると立ち去っていきました。
後ろ姿が見えなくなるとハウストが感心したように言います。
「見れば見るほどお前にそっくりだな」
「…………」
「雰囲気も出会った頃のお前に似ている気がする」
「…………」
「どうした?」
黙り込んだままの私にハウストが不思議そうに聞いてきました。
でも、スウッと目を細めます。
「……私に似ていたら、なんだというのです?」
「!! しまったっ……」
ハウストがハッとしました。
焦りだした彼に私の機嫌が更に下降してしまう。私、気付いていますから。レオノーラを初めて目にした時からハウストとイスラは微妙に彼を意識してますよね。他の人とレオノーラへの態度が少し違っていて、甘いというか気を遣っているというか……。それが私と似ているからという理由だったとしても、私とレオノーラは別人なんですけど。
「ブレイラ、誤解するなよ? お前が怒るようなことなど何もない」
「……別に怒ってませんけど」
「怒ってるだろ」
「…………」
図星です。はい怒っています。
……あなたは呆れてしまうかもしれないけれど仕方ないじゃないですか、だって独占したいくらい大好きなんですから。
「……あなた、気に入った方には優しくなるじゃないですか。甘やかして、寛大になって、困っていたら助けようとするでしょう」
「そうか?」
「そうですよ。あなたに優しくされたら、どんな方もあなたを好きになってしまいます。私には分かります」
これは身をもって経験しているので分かるのですよ。
ハウストに心配されてレオノーラもきっと満更ではなかったはずです。
私はハウストをじっと見つめました。
「ハウスト」
「なんだ」
「歩き方を忘れました」
「ブレイラ?」
「私は一人で生きていけると思われるほどなんでも出来たはずですが、急になにもできなくなってしまったようです。なんとかしてください」
私はハウストにお願いしました。
ワガママは承知ですが今は甘えたい気分なのです。
「……水車小屋で休憩すれば歩けるようになると思います。連れてってください」
そう言うとハウストが少し驚いたように目を丸めました。
でもすぐに嬉しそうに笑んで、恭しく胸に手を当てます。
「仰せのとおりに」
ハウストが私の背中と膝に手を回して丁寧に抱き上げてくれました。いわゆるお姫さま抱っこというやつです。
どうやら最上級の甘やかしをしてくれるよう。私もハウストの首に両腕を回します。
「あなた、やっぱり甘やかすのお好きですよね?」
「そんなつもりはなかったが」
「絶対そうですよ」
「ならば、それはお前だからだ」
「ふふふ、嬉しいことを」
私の機嫌も浮上していきます。
自分でも笑ってしまうほどげんきんですね、さっきまで不機嫌な気持ちだったのに。
こうしてハウストに横抱きされて川沿いの小道を歩きます。
しばらく行くと古い水車小屋が見えました。
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