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第五章・初代四界の王VS当代四界の王(※家族五人)27
「……ハウスト、デルバート様の様子が少しおかしくありませんでしたか?」
「そうか?」
「そうですよ。…………レオノーラ様となにかあったんでしょうか」
水車小屋に突然デルバートが訪れて驚きましたが、その時もレオノーラの名を口にしていました。まるでこの水車小屋にレオノーラがいると期待していたかのように。
「もしかして、以前この水車小屋を使っていたのはレオノーラ様だったのでしょうか。もしそうなら、デルバート様はそれを知っていたということですよね」
「レオノーラは魔族の捕虜だったらしいな。もし二人に接点があるとしたらその時だと思うが」
「そうですよね。でも、それにしてもデルバート様はひどく焦っていたというか、なんだか複雑な様子でした……」
魔王と元捕虜の関係にしては違和感を覚える様子でした。ましてやレオノーラは敵対する人間なのですから。
私は考え込みましたが、ハウストが少し呆れた顔になります。
「ブレイラ、あまり深入りするな。たとえそうだったとしても俺たちには関係ないことだ」
「……そうですけど、気になるじゃないですか。あなたは気になりませんか?」
「ならん。それより」
ハウストはそこで言葉を切ると、ニヤリと笑って私を見ます。
「ここをまた使っていいそうだぞ。良かったな」
「良かったなってっ……。………………良かったですね」
ぼそりっと私も同意しました。
私だって望んでいることです。でも恥ずかしさに顔が熱くなってしまう。
そんな私にハウストは満足げに笑むと、そっと覆い被さって口付けてくれたのでした。
水車小屋での情事の余韻を消して、私とハウストは洞窟に戻りました。
丁度イスラたちも帰ってきたので良かったです。
オルクヘルムが私とハウストを見て意味ありげにニヤニヤしましたが……無視しました。「俺がガキどもを預かっていたお陰だな」とか言ってきましたが無視です。たしかに安心していましたが素直に認めるわけにはいきません。
こうして私たちはオルクヘルムお薦めの大型肉食獣を調理しました。私たちの時代では絶滅している動物なのでしょうね、初めて見た時は驚きましたが脂がしたたる肉はとてもおいしかったです。しかも肉に齧りついたゼロスとクロードのお口の周りが脂でテカテカして笑ってしまいましたよ。
ハウストとイスラもとても気に入ったようで、たくさんおかわりしていました。
他に村でいただいたパンもいただきました。ゼロスが「そのパン、かたいの。クロードだいじょうぶ?」と心配してくれました。ありがとうございます、優しいですね。でも大丈夫、硬いパンは甘いミルク煮にしてあげました。これならクロードも食べられますよ。
パンのミルク煮をしゃぶるクロードにゼロスが話しかけています。
「ちゅちゅちゅ、ちゅちゅ。むにゃむにゃ」
「ねぇ、クロード。おいしい? おいしい?」
「あぶぶっ。ちゅちゅ、ちゅちゅ。あーあー、ばぶぶっ」
「よかったね~。ぼくにもちょーだい?」
「あいっ」
「ありがとう! おいしいね!」
「あいっ」
なにやら嬉しそうにミルク煮のパンを食べる二人に私も嬉しい気持ちになりました。
今夜は私たち家族にオルクヘルムも加わっているのでとても賑やかでした。
料理はすべて十万年後の調味料で味付けして調理しましたが、オルクヘルムも大満足のようで良かったです。
「これが十万年後の味付けか! なかなかいけるじゃねぇか!」
「十万年前のお肉やパンもおいしいです」
「そりゃ良かった! ガハハハハッ!」
夜空に賑やかな笑い声が響きます。
こうして私たち家族とオルクヘルムは楽しい食事の時間をすごしたのでした。
◆◆◆◆◆◆
オルクヘルムがブレイラたちと過ごしていた頃、精霊王リースベットの元にも仲裁を願うブレイラの手紙が届いていた。
リースベットは手紙を読むと一笑する。
「なるほど、われに仲裁を依頼するか……。この精霊王リースベットを面倒ごとに引きずり込むとは、十万年後の人間はなかなか面白いことをする」
「ハハッ、ブレイラらしいな」
ジェノキスも手紙を読んで笑った。
まさか別行動しているブレイラたちが初代勇者と初代魔王の戦闘に介入したばかりか、宣戦布告して参戦しているとは思わなかった。ゼロスとクロードを探す為とはいえ思い切ったことをすると感心する。
「このブレイラとやらは十万年後の魔王ハウストの妃だったな。普通の人間だと聞いているが、間違いないか?」
「はい、ブレイラは普通の人間です。しかも魔力ゼロの人間、今回の仲裁願いもブレイラがイスラのことを思ってのことでしょう」
ジェノキスは手紙を見ながら答えた。
おそらくイスラは好戦的に一騎打ちを望んでいることは想像できるが、ブレイラの方は内心不安もあるのだろう。それに名目上は一騎打ちということになっているが、初代勇者の背後には数えきれないほどの人間の兵士や民衆がいる。一騎打ちだけで全てが解決するはずがないと考えたのだ。
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