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第六章・発動のトリガー2
「よお、久しぶりだな。精霊王は不在のようだが、まさかこんな形で顔を合わせることになるとは思わなかったぜ」
「それは俺のセリフだ、幻想王がこんな所になにをしに来た。今日は俺とそっちの勇者が戦う日のはずだ」
初代イスラがオルクヘルムを睨みました。
でもオルクヘルムは「怒るなよ」と軽く笑って受け流します。
「お前らも知ってるだろ、ここにいる五人は十万年後の世界から来た。そんな相手と戦えるチャンスを逃すかよ。それに戦う理由が出来たからな」
「戦う理由?」
「ああ、俺は幻想王だ。幻想王の名にかけて、十万年後の冥王の存在を許すわけにはいかねぇな」
「…………冥王? レオノーラから聞いたことがある。冥界の冥王とやらは、そのガキか」
初代イスラがゼロスを見下ろしました。
話しを聞いていたデルバートも見下ろします。
二人の王に見下ろされ、ゼロスはびっくり顔で二人を見上げました。……ゴクリッと緊張に息を飲み、「ちちうえ、あいつらがぼくをみてるっ……」と後ずさりしながらハウストの後ろに隠れてしまう。そこはゼロスにとって安全な場所ですからね。
でもそんなゼロスにハウストがため息をつきました。
「おいゼロス、今から戦うんだろ。情けない真似するな」
「だって、ぼくびっくりしたから……」
ゼロスはそう言い返しつつも、おそるおそる顔を覗かせました。
初代イスラとオルクヘルムは会ったことがあるけれど、ゼロスにとってデルバートは初対面。しかも同格の力を感じているので困惑しているのです。
「……め、めいおうのゼロスです! よろしくおねがいします!」
どんな時もご挨拶を忘れないなんてえらいですね。
オルクヘルムが「だから、冥界なんてないって言ってるだろ」と突っ込んでますが、それは気にしないようです。
そうしたゼロスに初代イスラは嘲りの顔でオルクヘルムを見ました。
「バカバカしい。こんなガキを相手にするつもりか」
「チビガキだろうと関係ねぇよ。俺の前で冥王を名乗るなら、それは王だ」
「フンッ、勝手にしろ」
「ああ、先に俺が一戦させてもらうぜ。デルバートも悪いな、そういうことだ」
オルクヘルムはそう言うと今度はデルバートを見ました。
デルバートは最初から異存がないようで、「分かった」と了承します。オルクヘルムの戦う理由を理解しているようでした。
こうして第一戦目に初代幻想王オルクヘルム対冥王ゼロスが戦うことになりました。
初代イスラと魔王デルバートはそれぞれの陣営に戻っていきます。
私たちもゼロスを残して下がらなければいけません。でもその前に私はオルクヘルムに向き直りました。
「オルクヘルム様」
「なんだ」
「ゼロスを、……」
傷付けないでください。そう言いたかったのに続けられませんでした。
だって、ふいに聞こえてきたのは「いちにっ、いちにっ」と準備体操をするゼロスの声。両腕をぐるぐる回したり、屈伸したり、ぴょんぴょんしてみたり、体を温めて戦闘態勢を整えていたのです。
蒼い瞳は強気な輝きを宿し、その表情は幼いながらに真剣です。ゼロスはオルクヘルムが強敵だということを分かっているのです。
でも、あなたは勝利するつもりなんですね。強敵だと分かっているのに、拳の大きさだってぜんぜん違うのに、圧倒的な力の差があるというのに、それでも諦めていないのですね。
「どうしたブレイラ」
黙り込んだ私にオルクヘルムが声を掛けてきました。
私を見てからかうような笑みを浮かべます。
「なんだ、そんな顔して」
「そんな顔……、……私はどんな顔をしていますか?」
自分の頬に触れてみる。
私は今どんな顔をしているのでしょうか。
「ガキを殺さないでくれと俺に縋ろうとする顔だ」
「…………」
もしここでそうですと言ったら、オルクヘルムはゼロスを傷付けないでくれるでしょうか。
私は考えて、……考えるのをやめました。ゼロスが諦めていないのに、私が諦めるのはおかしなこと。
私はオルクヘルムを見据えてきっぱり答えます。
「あなたの見間違いでしょう。私はそんな顔していません」
「今ならまだ間に合うぜ? 一言いえばいい、冥王なんて存在しないってな」
「あまりゼロスを舐めないでください。ゼロスは強い冥王様です」
私は強く言い放つとゼロスを振り向きました。
勝つために準備体操をするゼロス。
「いちにっ、いちにっ、いちにさん! おわり! ちちうえとあにうえ、ちょっとこっちきてー! さくせんかいぎはじまるよー!」
体操が終わるとハウストとイスラを呼びました。
ハウストとイスラは「勝手に始めてろ……」と言いながらも渋々とゼロスのところへ行ってくれます。なんだかんだ言いながらも優しい父上と兄上です。
ゼロスの身長に合わせてハウストとイスラがしゃがむと、ゼロスが二人の肩を組んでなにやらこそこそ……。三人が丸くなって顔をつきあわせ、時おり「おねがい! ぼく、かっこよくかちたいの!」と声が聞こえてきました。
そんな様子にオルクヘルムが呆れたように苦笑します。
「……なにしてるんだ、あれ」
「見ての通り作戦会議です。ゼロスは本気であなたに勝つ気でいますから」
誰が見ても無謀な戦いですがゼロスは諦めていません。
少しして作戦会議は終わったようで、ゼロスが自信満々の顔で私のところへきました。
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