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第六章・発動のトリガー5

「みんな、こんにちは! ぼくは、めいおうのゼロスです! なかよくしてね!」  ゼロスの突然の自己紹介。  その自己紹介に応えるように、……ズズズズズズズズッ、巨大な影が魔法陣から姿を見せました。  驚愕する私の横でハウストとイスラは少し安堵の様子を見せる。なにか知っていた様子の二人にハッとします。 「もしかしてさっきの作戦会議ですか!?」  私が聞くとハウストとイスラが苦笑しました。  やっぱり作戦会議でゼロスがなにかお願いしたようで、ハウストが教えてくれます。 「……あいつ、俺とイスラに召喚獣を貸せと言ったんだ」  ハウストはそう言うと、先ほどの作戦会議を思い出したのか渋面になりました。  どうやら先ほどのゼロス主催の作戦会議はハウストやイスラに交渉するものだったようです。交渉といっても『ちちうえとあにうえのおともだちと、ぼくもおともだちになりたいの。おねがい、ちゃんとなかよくするから! ぼくのおやつわけっこするし、いっしょにあそんであげるから~!』と駄々をこねたようです。 「召喚獣と仲良く……。召喚した動物はあなたやイスラが使役する魔獣のことですよね」  私は魔狼のエンキやクウヤを思い出します。ハウストは他にも魔界の魔獣をたくさん使役していました。 「そういうのって簡単に貸し借りできるものなんですか?」 「どうだろうな。制圧できるか否かだ」 「それは普通なら難しいということですね」  魔界の魔獣は戦闘力に長けていて強力な魔力を持っていますし、人間界の動物は特殊な能力で戦闘や戦術を補助する力を持っています。  しかも魔王ハウストや勇者イスラが使役するのは、その中でも別格の力を持っていました。  それを制圧し、従え、使役することができるか否かは本人次第ということなのです。  でも今。 「ああ、ゼロスっ……」  堪らない光景に感嘆の息を漏らしました。  召喚魔法陣から出現したのは巨大な魔獣や特殊な能力を持った動物たち。それは魔界や人間界でも最上位種で、四界の王のみが従えることが可能なもの。それがゼロスの召喚に応えて荒野を埋め尽くすほど出現したのです。  ハウストの足元からクウヤとエンキもぴょこりと顔を出して、ハウストとゼロスを交互に見ました。  まるで伺いを立てているような仕種で、ハウストは少し呆れたような息をつきます。 「……お前たちも行ってきていいぞ」  ハウストがそう言うと二頭の魔狼は駆けだしてゼロスの側に控えます。  あの二頭は使役されたというよりゼロスが心配でお世話をしに来てくれただけのようですね。思えばイスラが子どもの頃もクウヤとエンキは遊び相手になってくれていました。きっとクロードももう少し大きくなったらクウヤやエンキの背中に乗って遊びに出かけるようになるのでしょうね。 「できるかどうかはゼロス次第だったが、ゼロスは攻略したようだな」 「以前、イスラが召喚魔法を教えた時はダンゴムシしか召喚できなかったのに」 「……思い出させるな」  ハウストが少しうんざりした顔になって、私は小さく笑ってしまいました。  以前、イスラとゼロスが森に出かけた時に、ゼロスは初めて召喚魔法を教わりました。その時はダンゴムシしか召喚できませんでしたが、魔力は規格外なので魔界の城に大量のダンゴムシを召喚したのです。城内はパニックになって、女官の悲鳴や士官の雄叫び、フェリクトール様も大激怒。それはもう大変でした。私も魔法陣からたくさんのダンゴムシがぞろぞろ行進してくるのを見た時はどうしようかと思いましたよ。  そんなつい最近までダンゴムシしか使役できなかったゼロスがと思うと、ああどうしましょう、胸がいっぱいになります。 「イスラ、ありがとうございます。こんなにたくさん召喚するなんて驚きました」 「やはり実戦が手っ取り早いな。だが俺も少し驚いている」 「イスラも驚くほどとは凄いですね」 「ああ、本来は別の世界の魔獣を召喚獣として呼ぶのは面倒なんだ。だからわざわざ俺もハウストも精霊王もそんなことはしない。しかし一度にこれだけの数を召喚するとは……、やはり冥王だからか」 「冥王だからとは、どういう意味です?」 「精霊界で発見された禁書のなかに、かつての幻想界には獣人と呼ばれる種族が存在していたと記録されていた。幻想界の幻想王っていうのは元々動植物と相性がいいんだろう。それなら冥王のゼロスが一度に大量の召喚獣を呼べたのも納得できる」 「そういえば、見たことがあります。幻想界が三界の王に封じられて冥界になる前の、一万年前の幻想界の光景をっ……」  思い出しました。それは二年ほど前、今のゼロスが生まれる前のことです。私は最後の冥王ゼロスによって一万年前の幻想界の光景を見せられたのです。そこには人型と獣型がかけ合わさった獣人と思われる種族が生きていました。その後、三界の王によって封じられて幻想界は冥界になりました。  おそらく幻想族の中にはこの初代時代からのちに獣人に進化した種族もあったのでしょう。でも私たちが生きる十万年後の四界には存在しないので、それは絶滅したということ。  そして幻想界は冥界になり、私たちの時代で消滅しました。でも滅んだ幻想界と冥界の灯は残っていたのですね。それは新たに創世した冥界の冥王ゼロスの中に受け継がれていたのですね。

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